英Economist誌のビジネス欄には「Face Value」というセクションがあり、話題になっている経営者や実業家を毎週取り上げています。大体イギリス人らしく結構意地の悪い面白い記事が多いのですが、今週はスティーブ・ジョブズでした。
私が読んでちょっとだけ面白かったところを下にのせてみます。
約1年前、医師はスティーブ・ジョブズに彼の膵臓のガン化した腫瘍により、彼の命はあと数カ月であり、別れの挨拶を始めるべき時だと告げた。その夜遅く、内視鏡検査によりガンの切除が可能であるかもしれないと分かったがジョブズ氏は1日間、死に直面しそれを凝視したのである。(中略) ジョブズ氏の人生において変わっているのは、彼が成功するためには、現実の死にせよ、比喩的な死にせよ、彼が時々臨死体験を必要とするように見えるところである。
Economist誌は彼の華々しい成功や再起(AppleによるPC時代の革命の先駆け、NEXTやPixarによる再起、iPodの成功)と、ほぼ「死」に近いような体験(Windowsに対する徹底的な敗北、自分の会社から解雇された絶望と恥辱、ガン)を概観し、危機の度にジョブズがより強くなっていると論じています。
1960年代にカリフォルニアで成長した人間にふさわしく、彼はカルマと愛を信じていると公言している。これが必ずしも彼の従業員に対する愛でないのは明らかである – 彼の下で働くのは悪夢だと知った従業員が何人もいる – そうではなく、それは自分のアイデアに対する愛である。彼はスタンフォード大学の学生に対する講演で、「自分の愛することだけをやれ、そして決して安住してはいけない」と学生にアドバイスしている。特にガンの体験により彼の精神の焦点は定まったようにみえる。「死はおそらく人生における最高の発明だ。外部からのすべての期待、すべてのプライド、恥辱や失敗に対するすべての怖れ – これらのものはすべて死の前では力を失い、真に重要なものだけが残る」とその講演でジョブズ氏は学生に語っている。
もちろんジョブズ氏がやさしくなって行きがかりの人を見境なく抱擁するようになったなどという感覚を持ってはいけない。ジョブズ氏は相変わらず短気で、癇癪持ちで、気難しいし、アップルの噂をウェブサイトで公開した学生を訴えることもする。しかし死すべき運命に対する認識が彼を変化させたのである。1985年の(アップルからの解雇の)恥辱の後で「すでに彼は柔らかくなっていた」とアドビのCEOのブルース・チゼン氏は語っている。ガンの後では「彼はもっと柔らかく」そしてさらに創造的になったとチゼン氏は言う。
ハリウッドおよび音楽レーベルも(彼のライバルと同様に)ますます彼を怖れている。ジョブズ氏が2001年にiTunesを始めた時にはほとんど真剣に取り合わなかった音楽レーベルは彼の力にうんざりし、1曲99セントの一律料金を変更するように彼に圧力をかけている。彼が圧力に屈する可能性はほとんどない。ピクサーの長年のパートナーであったディズニーは、ジョブズ氏がディズニーの元のCEOに愛想を尽かしてけんか別れになったが、今やジョブズ氏に気に入られようとすり寄っている。
手短かに言うと、ジョブズ氏は誰の基準から見ても生気に溢れている。カリフォルニア州知事選に出るという噂すらある(アル・ゴアはアップル社の取締役会に入っており、おそらくは民主党になるだろうが)。ビル・ゲイツとマイクロソフトに対する大敗により知られているという面も大きい人間にとっては、これはまさしくあらゆる面において新しい生のように感じられるだろう。
ジョブズの変てこさかげんがイギリス人の偏屈さと合うのかどうか分かりませんが、Economistはジョブズがアップルに復帰して少したった後、まだ米国のメディアがジョブズにかなり冷たい目を浴びせていた時期にすでに好意的な記事を同じ「Face Value」のセクションで掲載していたのを思い出しました。レコードレーベルからのプレッシャーに対するジョブズの反応の予想にしても頷かせる部分があるような気がします。
ところで余談ですが、米国のメディアのジョブズに対する評価はここ数年で地獄から天国という感じで(大体米国では、失敗した経営者はとことん叩かれ、成功した経営者はこれ以上ないというくらいに崇められますが、ジョブズの様に両方やった人間は少ないので面白いことになります)、ジョブズがiPodで成功しだすと米国のメディアでは一斉にジョブズ礼賛が始まりましたが、礼賛している人の中にもかつてジョブズを完膚なきまでにけなしていた記者も結構いて、「あれは間違っていた」と神妙に書く記者もいれば、何事もなかったかのように今度は徹底的に褒めまくっている記者もおり、あちらでもメディア業界の人間が嫌われるのが良く分かります(笑)。
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