2010/7/19 月曜日

本:自由市場の終わり?とな

EndOf FreeMarket.jpgBremmer

昨日は久しぶりに少し時間があったので、The End of the Free Market(自由市場の終わり)っちゅー少しの間積んどいた本を読んでみました。地政学的リスク・アセスメントで有名なユーラシア・グループのイアン・ブレマーさんの本で、各所で結構話題になってるようです。個人的に好きな人なんであんまり悪口は言えないんですが、日本語だからええか(おいおい)。

まず、売り方があまりよろしくないです。自由市場諸国 vs 国家資本主義諸国、いや煎じ詰めるとアメリカ vs 中国という構図を見せて、これに大層に「自由市場の終わり」とかいうタイトルをつけて、経済システムへの不安とか「中国ずるい・こわい」派の困った人々につけこんで売ろういう雰囲気が満々です。ま、これが上手く当たってるのかもしれませんが。

しかし、書いてるご本人はいたってクールで、だいたい「自由市場が終わる」なんて全然考えてないですし、この本自体の内容もフツーに冷静なものなので、この売り方は出版サイドの意向なのかもしれません。本の売り方が暗示するような、いたずらに声高でセンセーショナルな内容を期待する人向けの本ではないような気がします(評を読んでると意外とそういう風に読んでる人もいるようですが)。

で、中身を超強引にまとめると、

  1. 現在のロシア、中国、サウジなどの国家資本主義というのは簡単に要約すると、市場をすべての個人のための機会実現のための原動力としてではなく、国益に仕える道具であると考えて、国家目標の達成ないしは政治支配者の利益のためのツールとして市場を利用しようとする体制なんね。
  2. んで、最終的には、経済的合理性よりも政治上の目的が優先される結果、コモディティの価格形成が歪んだりして、世界経済全体の効率が阻害されるので、困った影響はあるかもしれん。
  3. しかし、経済的合理性が究極的には二の次になる場合があるとゆーことは、長期的に見れば、経済システムとしては自由市場に匹敵できないとゆーことを意味する。とゆーわけで、100年後には国家資本主義は存在してないかも分からんが、ただ金融危機のあとで市場への信頼が地に落ちてるんで、今後相当の期間において世界中で勢いが増すかもしれん。
  4. その間、自由市場経済諸国は、自らの信条に反して保護主義に走ったり、国家資本主義諸国からの投資に門戸を閉ざしたり、移民を制限したり、気短に相手が飲めるわけのない要求を押し付けていたずらに対立をあおったりしたらあかん。そうではなく、人や資本や情報の行き来を拡大してお互いの経済依存関係を深めることに努めんといかん。

ということになります(希釈率100万倍)。

本当はこの本よりもはるかに精緻なものを書ける人だと思いますが、この手の本を平易に書いて一般向けに売るというのは大変に難しいと思うので、それを考えると、よくまとまってるのかもしれません。

ただ、随所にキレの良いフレーズもあって、例えば

「国家資本主義は、共産主義がかつて人々のイマジネーションに及ぼした影響力に匹敵する力をもつことは決してない。なぜなら、国家資本主義は社会的、経済的な不正義への対抗ではないからだ。(中略)国家資本主義は、政治的なレバレッジと国家の利益を最大化することを目的としており、社会的不正義と戦うことを目的とはしていない。(中略)これらの諸国はグローバル経済から利益を得ることを望んでいるのであり、その解体を望んでいるのではない」

とか、

「国家資本主義は、明確な政治的イデオロギーではなく、一連の統治上の原則でしかないため、国家資本主義諸国同士で完全に利害の一致を見ることはあり得ない。(昔の重商主義と同様)国家資本主義はその究極的な性質上排他的なものだ。中国とロシアという2大国家資本主義国の経済的利害は競合関係にあり・・(中略)・・予想できる将来において、この自然の競合関係により、両国が協力する可能性、あるいは領域を超えて影響力を行使する力は限定される。そしてこれはすべての国家資本主義国に当てはまる」

(つまり、国家資本主義は自由市場に対するアンチテーゼには程遠く、国家資本主義諸国は自由主義諸国に対抗する真の意味でのブロックを形成し得ない)などといったところは中々しゃれた書きっぷりだと思いました。

ここらへんの話題に明るい人には新しく得ることはあまりないかもしれませんが、そうでない人には一般向けとしていろんな地域、事例のネタも色々入っていて、さっと面白く読めます。個人的には5章まではやや事例、逸話中心の構成で少し散漫な印象を受けたのですが、これはブレマーさんも書いてる通り、国家資本主義は見通しの良い明確なイデオロギーではなく、したがって一般論から入るのは困難だという理由もあるかもしれません。というわけで、6章のなかなかキレの良い(しかし、その前の章までの話がないといかにも軽くなってしまう)まとめまで短時間で一気に読んでしまうのがよろしいような気がします。

ついでにブレマーさんに対する日経のインタビューはここで読めます