2009/9/19 土曜日

米国医療改革よもやま話1:米国の無保険者は(本当は)何人なのか?

どうも、米国のマスコミでは大騒ぎになっているわりに、カンケーない人にはほとんどワケの分からんのが米国のヘルスケア改革ではないでしょうか。ただ医薬品/医療関係機器にとっては極めて重要な市場であり、これらの将来にも大きい影響を与える可能性があるので、つれづれシリーズとして(シリーズになるかどうかも分かりませんが)ちょっと書いてみます。

個人的には、医療改革は必要であると思っていますが(そういう意味では賛成派かもしれませんが)、今のオバマ政権での改革案には賛成でも反対でもありません。重要な点において相矛盾し、中身もかなり違う提案が数え方にもよりますが3つも4つも乱立して並行して議論されており、今の状態で(何に賛成/反対してるのかも分からずに)賛成とか反対とか言い切れるのは、かなり政治的にバイアスがある人達ではないかと思います(ただし、現状では70%以上の確率である程度の規模の改革法案が通過すると思っています)。こうなったのにはホワイトハウスの進め方に問題がありますが、それはまたいつか。

医療改革からみで最近話題になっていたのに、米国の無保険者は何人か、というのがあります。米国では低所得者用のメディケイド(これは対象サービスが広く、しかもほぼタダという面で気前がメチャクチャ良いです)、高齢者用のそれほど気前の良くないメディケア、子供向けのS-CHIP、そして民間各社の保険がメインですが(後は、退役軍人用とか、マイナーなのもありますが)、そのどの保険にも入れない(あるいは入っていない)人は一体どれだけいるのかという話です。

オバマ大統領は7月、8月の演説では4600-4700万人に健康保険がないと言っていましたが、この数字は9月9日の演説では3000万人となっています。1カ月で医療改革の対象者の数が1700万人も変わるというあたりに今の議論の状況が伺えますが、一体どうなってんでしょうか。

まず4600万人というのはセンサス(PDF)をベースにした4570万人を丸めた数字のようですが、この内訳をカウントしてみると、

  1. 実際は保険加入者 640万人:これは要するに統計の誤りで、MedicaidやS-Chipに入っているにもかかわらず、調査員に誤った回答をした人数で、一般に「Medicaid Undercount」と呼ばれています。この数字に関してはKaiser Commision(PDF)で推定されています。この人々は被保険者です。
  2. MedicaidやS-CHIPに加入する資格があるにもかかわらず加入していない人 430万人:これらの人は病気になったら通常は病院で加入させてもらえますから基本的に無保険のリスクはありません。(同上)
  3. 外国人:930万人。外国人でも会社勤めの人々は会社で保険に入っているのがほとんどですから、これらは不法入国、あるいは自営業で保険に入っていない人と言うことになります。これらのうちどれだけを公的保険でカバーするべきかに関しては議論の分かれるところです。

さて、これで「保険に入っていない米国人」は2570万人ということになります(大統領の3000万人はこの時点で?となります。ある程度の外国人を含んでいるのかもしれませんが、単に「丸めた」のかもしれません)。

この2600万人中、1010万人は貧困ラインの3倍以上の収入があります。これは米国基準では4人家族で年収6万6000ドル、単身で3万2000ドルの年収があることを意味していますが、これは十二分に健康保険の保険料を支払える収入ですから、「保険に入れない」のではなく「保険料がもったいないから入らない」という層です(個人で加入の健康保険の月あたり保険料は平均で月159ドル、家族では369ドルです。これは平均ですから、安物であればもっと安いことになります)。

これらの人は、「自分で入るのはもったいないが、高収入者に増税して自分たちに回るのであればそれもオッケー」という層であると思いますが、病気になってもERで追い返されるということはないですし、ERで治療を受けて踏み倒す人も多いですから、重病でない限り本当のリスクはERでの待ち時間ということになります。

したがって、本当に「保険に入れない」、すなわち、メディケイドに入れるほど貧しくもないが、保険料を払うのは苦しかろう、と言える米国人は約1560万人ということになります。これでも多いですが、4600万や3000万人とは比較になりません。医療改革賛成派も反対派も言葉や統計のインフレが極めて激しく、それで議論がねじくれ曲がっている点も多いという点はアタマにおいておく必要があると思われます。

つまり、「皆保険」あるいはそれに近い状況を達成するには、多くの民主党議員が騒ぐほど「大袈裟な」仕掛けは必要ではない可能性があり、また、共和党員が騒ぐほど「高価」ではない改革が可能かもしれないということです。

2009/9/14 月曜日

したたかネタンヤフと米政権の「大人の関係」?

米国のミッチェル中東特使の今週のイスラエル入りを前に、イスラエルのネタンヤフ政権はヨルダン川西岸の入植地での新規住宅建設を許可しましたが、最近の展開からは色々なことが見えるような気がします。

ネタンヤフに対する与党リクード内の右翼からの突き上げは最近激化しており、ミッチェル中東特使訪問とともに水曜日には大掛かりな入植地拡大の気勢を上げる構えでした。これに、ベニー・ベギン(メナヘム・ベギンの息子)などのリクードの有力者が呼応するようなことがあれば、ネタンヤフの威信は大いに揺らいでいたことでしょう。

住宅建設の許可の発表は週の後半、週末のためのニュースのタイミングにすっと入り込み、右翼の動きに対する効果的なカウンター・パンチになりました。おそらく以前から、この切り札を出すタイミングを測っていたと思われますが、抜け目のないおっさんです。

また、それ以上にしたたかなのが、住宅建設の許可の付け足しに、この許可の後に「平和交渉のための新規建設の6カ月間の一時停止」を加えている点です。これには明らかに、米政権との「お互いの顔を潰さない」ための暗黙の合意があったと思われます。

新規住宅建設の発表には米国も非難を加えていますが、米国が新規建設を本当に止める気であるならば、極めて強力な圧力を加える手段がいくらでもあるわけですから、これは形ばかりのものと見て差し支えないでしょう(たとえは悪いですが、中国が北朝鮮を非難するようなもんです)。

オバマの顔を大っぴらには潰さずに、同時に実質的には入植地での新規建設ペースをまったく緩めず、右翼の支持だけでなく、この「和平のための一時停止」で和平交渉派の中道左派の一部の支持も取り付けて政権基盤を強化するという「1粒で何度も美味しい」戦術的勝利の演出はなかなか大したものだと言えます。これだけ「最大限の」努力をしたんだから、次はパレスチナとアラブ諸国側が努力する番だとボールを押しつける算段でしょう。

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米国とイスラエルが裏で適当に妥協点を探って「後はパレスチナが妥協する番だ」というのは、何のことはない、今まで何度も繰り返されてきた(そして失敗した)構図なんで少し鼻白みますが、今回は西岸地区でパレスチナ自治政府のファイヤード首相がイスラエルとの交渉や合意に依存しないパレスチナ人による国家の樹立を目標としており、こちらが本当の意味での新しい動きかもしれません。

ちなみに、ファイヤード首相はテキサス大学で経済学博士を取得して、セントルイス連銀や、IMFで働いていたこともある経済学者で、今まで欧米での「声」となる人物に欠けていたパレスチナにとっては極めて重要な人物です。同氏の政府が掌握する西岸地区での経済成長率は今年5%に達すると見られています。

ただ、ファイヤード氏は、ハマースとの折り合いが最悪で(当たり前ですが)、おまけに米国はイスラエルとの和平交渉をバイパスするようなパレスチナ人による一方的な国家樹立は絶対に認めておらず、そしてハマース抜きでの和平交渉など(ハマース入りでの和平と同じくらいに)困難な話ですから、今回も何かあまり期待できないような気はいたします。

2009/9/3 木曜日

米国市場:(また)「正気」の兆し?

世界的に経済の底入れの兆しは明確になってきており、米国もデータはまずまずといったところですが、3月の底から直近の高値を記録した8月27日まで50%以上の上昇となっていた株価はここのところやや息切れとなっています。またここ数日間は良いニュースに対する市場の感度も明らかに落ちています。

ハイイールドのスプレッドも過去2週間ほどは再び拡大傾向にあり、VIXも29前後で7月上旬の水準に戻っています。市場はやや「正気」に戻りつつあるんでしょーか。

S&P 500が織り込んでいる成長水準を考えると、前提にもよって違いますが、3月の安値は今年の米国経済の成長率として大体マイナス3%程度の実質GDP成長率を織り込んでいた数字であると見られています(今年だけのことを考えれば概ね現実的な想定であったと言えます)。先週の高値水準は、これも前提によりますが、翌年の実質GDP成長率が概ね4%となる成長軌道を織り込んだ数字であると見られます。

米国経済の翌年の成長率に関する予想にはかなり幅がありますが、4%は予想レンジの上限にある数字で、現在のコンセンサスは2.0%というところです(これは大体現在の社債で織り込まれている水準です)。翌年の成長率を2%とする成長軌道を単純に株価に当てはめると、S&P500で850-880程度までの調整の可能性はあります。

ただし、今までも市場は「とうとう調整か」と思うと、上に抜けてきているので今回もこれで調整入りなのかどうか分かりません。良いデータへの感度が落ちてきているとはいえ、受注/在庫の比率は1.9倍近くと過去30年以上の期間で最高の水準にありますから、ISMなどの数字もまだまだ上向きです。

短期的にはS&P500が8月17日の980あたりを割り込んでくれば黄色信号と思われます。

2009/9/1 火曜日

上海で大騒ぎ

最近では、日経がダウの影響を受けるように、米市場が上海の風向きの影響を受けているかのような感がありますが、上海続落で米国は結構な騒ぎです。S&Pなど高値水準にあるので、上海の下落が調整入りのカタリストになるかもという向きも結構いるようです(個人的には米市場は高すぎると思っていますが、弱気のコールはまだ早いように思われます)。

上海は8月4日の直近の高値からすでに23%以上下げており、50日平均を割り込み、200日平均の線も視野に入ってきています。中国当局による過剰設備の処分や、不良債権に対する引当の増額の指示、そして貸出の減速など、引き締めに対する懸念が騒ぎに輪をかけています。

しかし、例えば米市場が今の状況で、「Fedが金融引き締めに動く」などという話があっても、ほとんどの連中は一笑に付すに違いありません。中国に関しても同様で、当局はその時点で必要な措置は取るでしょうが、まだ大きくブレーキを踏みこめるような状況にはないはずです。

どうも「中国」という名前が出るだけで、皆さん完全にアタマに血が上って大騒ぎするという傾向がまったく収まっていないように思われます。私が鈍いだけという可能性もありますが。