2008/9/30 火曜日

市場つれづれ:米下院、金融安定化法案否決、ダウ-777.68

米国の金融安定化法案は米下院で民主党の約4割、共和党の6割以上という大量「造反」で、先日の議会指導部とブッシュ政権の「暫定合意」はおじゃんとなりました。

ダウは29日寄り付きから結構なマイナスで、市場が救済策をあまり好感していないのが明確でしたが、午後1時40分頃から下院で反対票が積み上がっている状況がフィードで流れると、わずか5-10分程度でマイナス290くらいからマイナス670程度まで一気に底が抜けました。「救済策はイマイチだけど、救済策がないのはもっとイヤ」というところでしょうか。

議会では、共和党の議員が大量に造反したのは投票直前にナンシー・ペロシがブッシュ政権の経済運営を激しく攻撃した党派的な演説のせいだとか、そんなことで反対するのは国を無視した自分勝手だとか、お決まりの中傷合戦が行われています。しかし、基本的には今回の否決は国の市場への干渉を嫌う共和党の「原理的」右派と(最近は市場では「ブッシュ/ポールソン/バーナンキ体制は中国以上のアカだ」とかいう人も結構見受けられました)、選挙民に「税金でウォール街の金持ちを助けた」と見られたくない激戦区の両党議員、救済策に経済刺激策や借り手保護が含まれていないことに不満を持つ民主党左派の合作と言えます。

今後ですが、議会では共和・民主で救済策に対するさらなる妥協案を作るか、あるいは多数派の民主党が経済刺激策やら借り手保護の条項などを付けて単独で採決するか、(何もしないか)、など、いくつかの可能性がありそうです。ポールソン長官は救済策に対する議会の承認を引き続き求めるとしていますが、議会が落ち着くまでは当面アドホックな対応となりそうです。

ところで、今回の下げ幅は9/11のテロ攻撃後の2001年9月17日の下げを上回る史上最大の下げ幅ということです。ただし、比率として見た場合の7%の下げは、ダウの長期的なボラティリティからすると大体4年ちょっとに1回くらいの割合で起こる下げなので、7年ぶりということであればフツーと言えばフツーなのかもしれません。コックス御大の空売り規制がなければ、おそらくはショートのカバーでこれほどには押していないのではないでしょうか。

S&P500は1106.39と106.6のダウン(-8.8%)で、こちらもボラティリティから見ると大体10年に1回程度起こる下げですが、月曜以上の下げは1987年のクラッシュ以来20年ぶりということなので、逆に見ると過去数年の市場が異常に安定していたと言えるでしょう。テクニカルに言えば、2006年、2005年のサポートを簡単に割ってしまっているので、2004年の1060前後、2003年の975(!)前後が下げの目処になったような感じでしょうか。いずれにせよ、ファンダメンタル的にはなかなか良い値段になってきました。

2008/9/27 土曜日

大統領選ディベート

今日は最初の大統領選のディベートがありました。

どちらも大統領候補としてはディベートはあまり強い方ではないのですが、マケインはいつもよりやや不調、オバマはいつもよりややマシといった感じでしょうか。

それでも議論の大部分において、マケインがかなり押していたように思えます(メディアは間違いなくそうは言わないと思いますが)。両者が話していた時間はほぼ同じだそうですが、少なくとも私はマケインの方が長く話していたような印象を受けました。

オバマの方は予想通り、「ブッシュ=マケイン」を印象づける戦略に出ましたが、これはあまり上手くないように思われます。まず、多くの人にとってはまだマケインは2000年にブッシュに挑んで八つ裂きにされた男であるということがあります(オバマ陣営としては、そのイメージを変えたいのでしょうが、言葉よりも行動の方が重いということは往々にしてあるものです)。そして、ブッシュはもはやシーンから消えて「過去の人」になりかけていますから、ブッシュの名前を連呼するのは、「明日」を売り物にしているオバマが、何となく「昨日の戦い」を戦っている印象を与えてしまうのではないでしょうか。

マケインはリック・ウォレンがホストを務めたオバマとの疑似対決や、タウンホールなどでのパフォーマンスに比較すると、少しぎこちなく堅かったような気がしますが、大部分の話題に関して優勢であったように思います。しかし、金融問題が前面に出てからやや旗色が良くないマケインとしては、今晩のディベートではただの優勢ではなく明確なノックアウトが欲しかったところかもしれません。もう少し強いパンチを繰り出せるチャンスもあったような気もしたのですが、昔人間はそこまではやらないのかもしれません。マケインとしては、金融救済策の成立がもたついてしまったので、議会での金融救済策の成立をブローカーする「手柄」を立ててからディベートに臨んで、自分の「不得手」な分野でオバマを叩きのめそうという当てが外れたというところでしょうか。

今回のモデレーターはPBSの渋いジム・レーラー氏ですが、今までの予備選などでのこのタイプのディベートのモデレーターと比較しても出色であったと思います。候補の間に割って入って自分が聞きたい話をさせるのがメディアの仕事だと思っている人も最近は多いようですが、控えめなレーラー氏のモデレーションはプロの仕事だと思わせるものでした。

追記:9/28/2008

いろいろなメディアでは、ディベート後の視聴者調査が行われ、概ねオバマ優勢との報道がなされているようですが(例えばCNNではオバマ51対マケイン38、CBSではオバマ39対マケイン24など)、調査対象の視聴者の母集団自体では民主党支持者の方が圧倒的に多いということを注記していないのは、報道としてはいかがなものでしょうか?

今回、CNNでは一応記事の最後の方に「ディベートの視聴者の41%が自分を民主党支持者であると答え、27%が共和党支持者であると答えた」と調査対象の母集団の偏りを注記しており、その点ではまだマシですが、それでもヘッドラインは「オバマの勝利」となっています。母集団のこの偏りから考えれば、51対38は「マケインの勝利」ではないんでしょうか?

2008/9/24 水曜日

マケイン「コックスはクビだ」

数日前にマケイン大統領候補が「ワシが大統領だったらコックス(SEC委員長)はクビだ」とか言って少し話題になっていました。

マケインおじいさんの挙げている理由はそれほど感心できるものではないのですが、最近の空売り禁止のドタバタなどを別にしても、コックスの下でのSECが今回の大惨事の一因を作ったことは否めません。

2003年までは、基本的に全米のすべてのブローカー・ディーラーのレバレッジ(debt to net capital)はExchange Act Rule 15c3-1(net capital rule)により、12対1が上限とされていました。それに加えて、資本の計算では、資産の価額に相当なヘアカット(割引)が適用されていました。Net capital ruleは1975年の導入ですから、30年近く大した綻びもなく機能していたことになります。

SECは2004年にいわゆるConsolidated Supervised Entity(CSE)のコンセプトの導入に伴い、大手5社に限定してこの規制の適用外とし、法外なレバレッジを可能にしただけではなく、その際に従来の手法では適用されていたヘアカットも廃止しています。

さて、このConsolidated Supervised Entityに選ばれた「栄えある」5社ですが、ご想像の通り、ベアー・スターンズ(沈没)、リーマン・ブラザーズ(沈没)、メリルリンチ(沈没)、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスと錚々たる面々になっています。そしてモルガン・スタンレーとゴールドマンは銀行持ち株会社への移行で商売替えですから、CSEモデルの規制はわずか4年で完全に破綻したといえます。

今回の大混乱の原因の1つにこれらの会社が無理なレバレッジを積み重ねたことがあると思いますが、コックス委員長はこれには目をつぶり、空売り規制や、一定の格付けの義務付けの廃止検討など、パニックでアタマがグチャグチャになってるんじゃないかと思われます。クビにしたところで問題が何一つ片付くわけじゃありませんが、責任は免れないでしょう。

– 追記:9/28/2008 –
てなことを書いてから何日もしない間に、コックス御大は突然「CSEは廃止します。失敗でした」との声明を発表したようです。相変わらず、自分のお尻をカバーするのは早いです・・・

2008/9/22 月曜日

ポールソン登場

フレディとファニーでポールソン長官はとうとう「バズーカ砲」をぶっぱなしましたが、今月はまさにポールソン長官の月でした(ってまだ9月終わってないですが。いやー長いですねぇ・・・・)。長官は着任以来、一生懸命に動いていたのは分かるのですが、(ベアーの時でさえ)財務長官というよりはどちらかというと「ソリューション・ブローカー」という感じの動き方で、本当に自らロケット砲をかついでぶっぱなすことは無いと思っていた人も結構いたと思います。

実際、財務省は少し以前からフレディとファニーに対する資本注入に関する気球(というか警告)を盛んに上げていましたが、8月の終盤にはファニーとフレディの株価がやや反発するなど、この時期に至っても「結局200-300億ドル程度を両社に追い貸しして次政権に問題先送り」と見た向きもいたようです。なめられたもんです。仕方ないですが。

ブッシュ政権のフレディーとファニーに対する敵意は有名で、フレディとファニーの「首を取る」シナリオは、フレディがブッシュ政権との約束を簡単に無視して資金調達を行わなかった5月くらいから本格的にバックグラウンドで動いていたと思われます。ただ、あまりに手強い敵であるため(ブッシュ政権は2000年代初盤にも、フレディーとファニーの規制強化を目的として全面戦争を仕掛けましたが両社の政治力の前に完敗しています)、実行に関してはタイミングを待っていたのではないでしょうか。

何と言っても両社とも政治的には「石山本願寺」なみの堅城の上に爆薬を山のように抱えているため下手に手を出すと大惨事となり、選挙中の大事な時期にファニーとフレディーの「お友達」の民主党の総攻撃を浴びる可能性があります。フレディとファニーの1989年以降の献金先を見ると、1位が民主党のクリス・ドッド(上院銀行委員会議長)、2位がジョン・ケリー、3位がバラク・オバマ、4位がヒラリー・クリントンなど、大物がずらりと並んでいます(Federal Election Commissionのデータ。しかし、GSEの連中が議会相手にロビーイングとは滅茶苦茶です)。任期の迫ったブッシュ政権としてはフレディーとファニーにトドメをさす最後のチャンスであったとも思われます。

世間では「追いつめられて」と言われているようですが、この人たちそんなに可愛いタマなんでしょうか。今回の問題の中心の住宅金融の本丸を一気に攻め落とした後は、リーマンをいとも簡単に外に放り出したり、AIGに爆弾処理班出動させたり、今度は「7000億ドル出せ。出さないで市場が混乱したらお前達の責任だ」と言わんばかりに議会相手に凄んだり、怒濤の寄りで完全に本気モードの様です。今後も決して展望が明るいわけではないですが、コワくて誰ももうナメないでしょう。

7000億ドルのパッケージに関しては、民主党は不良資産の買取に参加する企業の経営者の報酬カットと、住宅所有者の救済プログラムの追加を求めているようですが明らかに守りに入っています。長官は強行突破する肚ではないでしょうか。