2007/7/25 水曜日

日本のインフレの数字は過大?

物価上昇率の上方バイアスの話は良く聞きますが、この話も「その筋」(?)の人には喜ばれそうな話です。

コロンビア大のDavid E. Weinsteinセンセーとシカゴ大のChristian Brodaさんによる最近の論文の「Defining Price Stability in Japan: A View from America」によると、

日本のCPI計算方法には多くの血管があるように見える。・・・(中略)・・・(代替効果と品質改善の影響を考慮するために1999年に変更された)米国の物価指数の計算方法を使用すると、1999年以降の日本のデフレは年間平均で1.2%となる。これは日本の公式統計の2倍のデフレである。(中略)

我々の推定では日本のCPIは真実の生活費に比較して年間約2%(上方に)偏っている。この日本のCPIのこの上方バイアス、および日本の低インフレにより、今後10年間において社会保障費及び国債償還の増加で日本政府は69兆円の負担増となる。金融政策の面では、このインフレの過大評価により、日本銀行が正式なインフレ・ターゲットを採用したとしても、現在のCPIの計算方法を変更しなければ、2%を下回るようなバンドでは価格安定のゴールを達成することはできないだろう。

つまり、日本のCPIの数字は代替品の効果や品質向上の影響を(米国みたいに)「きちんと」考慮していないので、CPIは実際より2%高くなっていて、それに基づいた金融政策は必要以上にタイトなものになるってことなんですが・・・

個人的な感想ですが、特にHedonicsなんかは極めて恣意的で、インフレ統計にとって重要な「貨幣の購買力」を計る上ではまったく適切ではないように思えます。さらに、米国の方式では逆に人為的にインフレを低く見せる効果があるため、金融政策が必要以上に緩くなる可能性があるとさえ思えます。米国での経験はこれを裏付けていると思うのですが。米国でもファンマネ連中ではこういう見方も結構多いです。

Defining Price Stability in Japan: A View from America (NBER)

2007/7/24 火曜日

ヨーロッパ哀歌

ドイツ政府が次世代サーチ・エンジン技術のリサーチ・プロジェクト「Theseus」に1億2,000万ユーロの補助を行うことを欧州委員会が承認したと言う記事が少し以前に出ていました。

ニュースによると、ドイツ政府は最初にシーメンス、SAP、エンポリスなどに資金を出した後は、プロジェクトの進行に応じて小規模の会社にも資金を出すとのことです。EUでは、フランスも同様の「国家的検索エンジン・プロジェクト」でトムソンに補助金を出す件で欧州委員会と交渉中で、何としても米国に対抗したいという欧州各国の政府やブリュッセルの意向が見えます。

「エアバスの夢よもう一度」ということかもしれませんが、「米国に対抗」するために、「政府が戦略的テクノロジーをピック」して「補助金を出す」という構図自体に既に欧州のダイナミズムの衰えようを感じてしまいます。欧州でも技術者の対米流出が結構起こっていますが、政府が力を入れるほど「シラける」向きも多くなるような気もいたします。

話は変わりますが少し以前に、欧州のハイパフォーマンス・コンピューティング・イニシアティブ(欧州レベルで世界最高級のペタスケールのスーパーコンピュータのセンターを建設しようというプロジェクト)に関して議論したことがあったのですが、その時に渡された「予備的なスタディ」は文書だけでも合わせて軽く200ページはあるという代物でした。

中に入っていた「Scientific Case」では、欧州レベルでスーパーコンピュータのセンターを作れば、地球温暖化のモデリングがより精緻にできるので温暖化の防止の役立つとか、タンパク質の折りたたみ間違いの解明が期待できるとか、次世代のヘリのモデリングがどうだとか、結構「マジメ」なことがびっしりと書いてあって、どっかの国の研究者の「お金ちょーだい」文書のぺらぺらの「Scientific Case」なんかと比較するとやはり良く出来ている気もしました。

しかし、気になったのは、地球温暖化を防ぐためにどーだこーだと言いながら、常に最後に出てくるのが、「欧州レベルで世界最高の施設を作らないと米国に対抗できない」とか「米国や日本では戦略的にスーパーコンピュータで優位に立とうとしているから、欧州も同様にしないと欧州の科学が世界一線級でなくなる」ってな感じの文章だということでした。

この手の「(政府の力で)科学よりも対米対抗」とか上のサーチエンジンでは「(政府の力で)技術/ビジネスよりも対米対抗」とか感じさせるところに、何となく欧州の周縁化というか、科学者、技術者、実業家の志の低下と言うか、ある種の病を感じてしまいました(それに、同じようなところで税金使って対抗しなくても進んでいる部分は別に一杯あるのにねぇ)。ただし、人によって感じ方はいろいろあるみたいで、私と一緒にスパコンの文書見た人は「さすがに欧州は戦略的に頑張って考えてる。日本の政府はどうなってんだ」なんて言ってましたが・・・

あと、欧州レベルって言ってもプライドの高い国の集まりなんで、結局どこに何のセンターを作るんだとか、コンピューティング時間をどう配分するんだとか、各国に各分野のCOEを作るんだったらどこの国が何のCOEをとるんだとか、コンピューティングの面でもグリッド派やスパコン派や、たぶんまたずーっと延々とやるんでしょう。サーチエンジンのプロジェクトでも結局ドイツとおフランスで分裂でしたし。あぁ、ヨーロッパ。

欧州検索エンジン・プロジェクト
欧州委員会のリリース
APのニュース

ついでに
欧州ハイパフォーマンス・コンピューティングのScientific Case(PDFです)

2007/7/20 金曜日

村上氏実刑判決とな・・・

村上世彰氏がインサイダー取引で実刑判決を受けたようですね。インサイダー取引に対する断罪は当然ですし(その意味では今回の刑は重いとは言えませんが)、村上氏の主張していたようなこと –

ニッポン放送株は以前から買い進めており、LDの株取得の意向は大言壮語と受け止めた

が100万歩譲って仮に本当であったとしても、普通のファンドであれば社内の「Code of Conduct(行動規範)」に間違いなく引っかかるところでしょう。ただし、ファンドなどは裁判になった場合、すべてのことが「100%の全知全能の後知恵」で判断されるリスクを前提としていますから、いわゆる「李下に冠を正さず」にしているわけで、「行動規範に引っかかるようなこと」イコール「法の下で有罪」でないことも事実です。

私は法律には全くのトーシロで、また村上氏のファンでもないですが、少し気になったのがインサイダー情報になるかどうかの基準として、

実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題にならない

という部分です。これはかなり問題があるのではないでしょうか。インサイダー情報が「重大な情報」であるかどうかということの判断には、一般的に合理的な投資家がその情報を得た場合に、投資判断を変えるほどの重大性を持つかどうかという点が重要であると思われますが、上のハナシですと、米国なんかでもどこそのカクテル・パーティかなんかでSECが集音機とテープレコーダーを回していれば出席者をほとんどお縄にできるんではないでしょうか・・・おそらく山のような状況証拠と照らし合わせての文言であって、ここだけ抜き出して云々するのは無意味なのでしょうが。

同社が現実に大量の買い集めを実現させたこと等に照らせば可能性は高かった

というのも完全に後知恵のハナシで、実際に起こったことをそれ以前に得た情報と関連付けるのはトリッキーな気がします。まぁ、これは「大量に買い集めていなければ、可能性は高かったとは言いきれない」ということですから、これで前の「高低は問題にならない」というのと一貫していると言えば言えますが。

あと、インサイダー取引はいわゆる「Scienter-based(故意に基づく)」の罪で、意図(故意)の証明も重要であると思われますが(例えば、情報を得たという事実の隠蔽やファイルをシュレッダーにかけたなど)、これに関しては完全に無視のようです(って、単に報道されていないだけかもしれません。あるいは、「決定」と「伝達」を認定しているのであるから他のことは要らんということかもしれません)。

市場はルールに基づくもので、ルール違反を重く罰するというのは当然のことですが、重く罰する反面で訴追や裁判には非常に高度の厳格性が求められてしかるべきだと思います。昔、「テロリスト、麻薬犯罪者、ファンド・マネジャーに共通するものナーンダ?」というので、答えは「法の下で疑わしきは罰せず(Innocent until proven guilty)の適用例外となる人たち」というジョークがあったのですが、

被告人は「ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない。

なんていうのを見ると、少し慄然としたりします。これは、「否認するなら情状立証くらいしないとひどい目にあうぞ」ということなのかもしれませんが、村上氏が怪しからんということと、牢屋にぶちこむのは別のことです。単に私の見ている報道の質に問題があるのかもしれませんが、少し荒っぽいような気がしたので。

2007/7/15 日曜日

よもやま話:米国大統領候補の政策:相続税

日本では参院選に向けたキャンペーンが始まりましたが、米国でも2008年の大統領選、その前の予備選に向けていつもの大統領選に比較しても早い時期からキャンペーンが始まっています。各候補の政策もいろいろ日本とは事情が違っていて面白いですが、今回は相続税に関してちょっと調べてみました。ところで、日本の選挙では税金の議論は概ねタブーみたいですが、あまりよろしくないですねぇ。

共和党:
ルディ・ジュリアーニ:相続税廃止。「貯蓄、成長に悪影響を与え、しかもアンフェアな税金」
ジョン・マケイン:「低税率、シンプル、予見可能で控えめに」
ミット・ロムニー:相続税廃止。「所得に課税、貯蓄に課税、相続に課税」はアンフェア。

民主党:
ヒラリー・クリントン:相続の99%を非課税に(相続減税)。
バラク・オバマ:農家と小規模事業を保護するために相続税を改革(相続減税)。
ジョン・エドワーズ:極めて高額の相続に対して相続税を維持して、ユニバーサル・ヘルスケアの財源に。
ビル・リチャードソン:最富裕750家族に限定して相続税を維持(相続減税)。
クリス・ダッド:所得の不平等を是正する手段として必要。
ジョー・バイデン:カップル当り700万ドル(約8億4,000万円)を超える部分に一律45%。

どうでしょうか。私は個人的には相続税にはあまり縁の無い層ですが、相続税は貯蓄と資本形成に悪影響を与える可能性があり、小規模事業や起業家といった経済の活力を生む層に大きい負担を強いるため単純に廃止する(または上のクリントンやリチャードソンみたいに課税対象を極めて限定的に絞り込む)のがベターだと思っています。こういうのは日本では「タブー」なんでしょうねぇ。

相続税の各国比較は難しいですが、下の図は日本の財務省による国際比較に関する資料から相続税負担率の国際比較に関する資料(クリックで拡大)です。

2007/7/9 月曜日

スティール・パートナーズ

スティール・パートナーズがブルドックソースの買収防衛策の差し止めを求めていた件で、東京高裁はスティールの抗告を棄却したとのことです。

不思議のおでん村」を地で行っているような気もしますが、これで皆さん安心して仲良く生活できるということで目出たし目出たし。

判決はどんなものか分かりませんが、毎日の報道によると、

東京高裁は、企業の経営に参加する意思がなく、株価を上昇させてから関係者に株式を高値で売りつけるような「乱用的買収者」は、「差別的取り扱いを受けてもやむを得ない」との判断を示した。その上で、スティールについて過去の投資活動を分析し、「投資ファンドという性格上、自らの利益のみを追求しようとしている存在と言わざるを得ない」とし「乱用的買収者」と認定した。

だそうです。個人的には「株価を上昇させてから・・・高値で売りつけるような」者は「株主平等の原則」の埒外にあるというのは理解できませんし(別に「グリーンメーラー」が悪いとも思っていませんし)、ブルドッグには実現が到底難しそうなお値段で買いましょうという大変奇特な連中に高価な「おみやげ」まで持たせてお引き取り願うというお金持ち会社の「太っ腹」も理解できません(なんでそれが「完勝」なのかも分かりません)。今後逆に「おみやげ」目当てのせこい連中が増えたりして・・・

東京高裁の決定はスティールなどの投資ファンドについて、「さまざまな策を弄(ろう)して、買収対象の会社の株式を転売することで売却益を獲得しようとする」との見解を示しており・・・

ちょっと目眩がしてきましたが、真っ当な策なら上がるでしょうし、真っ当でなければ本人が損するだけです(はは、本来的にはですが)。真っ当でないディールをアウトローにしたところで、市場の機能は強化されませんし、それは長期的には経済全体にとっては不利益だと思いますが。

といっても、日本にはまだ金太りした企業や、ROEの低い企業が山のようにあり、またスティールなどが可愛く見えるお金の亡者スマートな連中も山のようにいますし、日本でもそんなに優しい株主だけではないでしょうから、今後も同様な話は続くことになるのでしょうね。