2006/6/30 金曜日

二酸化炭素に見るEU

EU排出権取引スキーム(EU ETS)における、2005年の排出量の検証結果が5月の中旬に発表されて、排出枠に対する予想外の排出量の低さで市場はぐちゃぐちゃになっていましたが、検証結果を見れば見るほど色々面白いです。もともと欠陥の多い超人工的な市場で欠陥と参加者や需給の動向の関係やらで市場の勉強にはもってこいなのですが、そこらへんの面白い話は今度時間のある時にでも。

排出量が排出枠に比較して低かったというのは、もちろんすごく省エネが進んでいるからではあまりなくて、排出枠が単に大きかっただけという面がかなり大きいのですが、面白いのは国別の状況で、一番排出枠が余って楽なのがドイツ(21Mtのアローワンス余剰)とフランス(19.1 Mtの余剰)になっています。でもって一番厳しいのが英国(27.1Mtの排出過剰)となっています。ちなみにEU全体では約65 Mtのアローワンス余剰と排出権はだぶついています(少なくとも2005年は)。

で、さっきも言いましたが、この結果は別にドイツとフランスで省エネが進んでるからでも、英国がさぼっているからでも全然なくて、見ようによっては各国政府がどれだけ(不)真面目に取り組んでいるかのバロメーターとも言えます(排出枠は欧州委員会と各国政府の政治的綱引きで決まる部分も大きいので、排出枠が大きいってことはそれだけ自国産業が二酸化炭素を大量に排出できるように政府が頑張ったってことですから)。

で、EU ETSはもともとEUの「威信的」プロジェクトの1つだったワケですが、とかく「自国産業に不利」とか「排出枠がキツすぎる」とかブータレながらも排出枠設定当時はまだEUを主導していたフランスとドイツが仲良く自分たちのフトコロだけは確保していたワケでこれはやはり大したものです(?)。ただ実績データが出たと言うことで、今度の排出枠割当では欧州委員会も甘くはないと思いますが。

一方英国ですが、ブレアが京都議定書目標よりはるかに厳しい「自主目標」を掲げていただけあって、EU ETSの排出枠もそれなりに厳しかったということで少なくとも「言行一致」は示されたようです(おっと、行動はそれほど伴っていないので「言言一致」でしょうか)。

ところで欧州全体では国ごとにデコボコもありますが、2008-2012年の間の京都議定書目標自体は射程に入ってきているようです(まだ排出超過の見込みですが)。現時点で一番ヤバそうなのはカナダと日本ということのようです。

2006/6/23 金曜日

NYSE空売り記録的水準に

6/22日付WSJによると、NYSEの6月15日時点での売り残は9,087,309,158と5月中旬の8,613,110,732から上昇し、記録的水準となっていたようです。

こういう気の早い人が多いうちは、買い浴びせられて派手に反発することもありますが、この気の早い人たちが反発に驚いて売りポジションを手じまいするにつれて、(そして反発を見て買いに入った人が損をして手じまいするにつれ)反発力も弱まることになります。

現在は急落後2回目の反発中ですが、今のところ反発力はそれほど強くないようです。米国の企業業績は悪くないですが、企業収益もそろそろピークアウトという感じではないでしょうか。米国の企業税制も今ほどの状態が継続する保証もないですし、金利もあり全体で見れば今後米国の企業業績が加速する理由はあまりないような気がします。

2006/6/17 土曜日

マイクロソフトの顔ぶれ

ビル・ゲイツ氏がとうとう一線から退くそうですね。今後2年かけての話である上に、会長はその後も続けるとのことで、しかも相変わらず悪役ぴったりのスティーブ・バルマーに、テクニカルに信任が厚いレイ・オジー、人望もあるクレイグ・マンディが優秀な集団を率いるわけですから、今回の動きも大方のメディアも言うように何らかの感慨を起こさせる以上のものではないのかも知れません。

ただ、経営陣の中でちょっと見たところ「超エグイ系(?)」がバルマーだけというのは少し不安な気もします。ここ数年ゲイツ氏は「悪の帝国のアーキテクト」というよりは、「善良な米国市民の代表」みたいになってきていましたが、以前はちょっと変わったコワさがあってバルマーと2人並んでたら相当の迫力だったような気がします。

少し語弊があるかもしれませんが、真っ当な会社では経営陣は「良い人」であることは不可能です。競争相手を叩き潰さないといけませんし、リストラは恒常的なものになっています。株主はキツいし取締役会もいつ噴火するか分かりません。私が勤めていたところでも、一緒に仕事をしたことがある会社でも、「コワイ」会社は大体経営陣の顔見ると(スマートさはもちろんとして)相当クレージーか悪そうか、その両方かという連中が結構多かったような気がします。

ゲイツ氏が抜けた後のMS経営陣の顔ぶれは「クレージー系」がバルマーだけになって迫力が薄れるようで、私は事業にも影響あるような気がしたりします。まだ気が早いかもしれませんが・・・(MSのアナウンスメントのページの写真から、ゲイツ氏にちょっと「遠慮」して頂きました)

2006/6/15 木曜日

スキャンダルつれづれ・・・

世間では色々騒ぎがあるようですが、とうとう日銀の中枢にまで飛び火したようで。私は別に日銀シンパでも何でもないのですが、さすがに少しヒステリーも度を超してきたような気もしないでもありません。

「キレイ」であるべき日銀総裁が(まぁ、分からんでもないんですけど)、こともあろうにホリエモンやら村上某の属すような「世間」と接点をもっていたというので「ケガレ」の輪の中に入ってしまった感もありますが、村上某は大分黒くてもまだ罪人と決まったわけでもないですし、大体、日銀総裁はファンドにお金を預けちゃいかんのでしょうか?

ということで、最近の騒ぎをみていると、西洋中世史の阿部謹也先生が日本の「世間」について書いた(そして見事に日本の学会「世間」から無視された)本を思い出しました。

世間は個人の準拠集団である。したがってそこから陰に陽に利益をうけているばあいには、その世間の構成を明らかにする必要はない。・・・・(中略)・・・・(しかし)ひとたび何らかの疑いがかけられると、世間が浮かび上がってくる。その(人の)世間とはいったい何なのかが問題なのである。いまだ最終判決が下っていないのに、疑いがかけられると容疑者として他の人々から区別され、周囲の者にまでその疑いの結果が及んでくるというわが国の構図を考えると、それは・・・(中略)・・・中世の神判の世界からほとんど隔たっていないのではないだろうか。
本人以外の人間にも疑いが及ぶと言う構図には、明らかに古代以来のケガレの系譜があると考えられるからである。

阿部謹也「世間」論序説―西洋中世の愛と人格 カッコは筆者。

もともと、行くとこまで行かないととまらんのかもしれませんが、金融で必要なのは継続的に効率性が担保される透明性とルールが保たれるような、ちょっとばかり不具合があっても機能する堅牢なシステムであり、今のような騒ぎはほとんど意味ないんじゃないかと思われますが・・・

日本人は何よりも秩序を愛する。彼らは必ずしもロシアやアメリカ合衆国との戦争を欲していない(それは結果としてそうなるにすぎない)。彼らは政治的な視界を明るくしたいと望んでいるのだ。
 「われわれに満州を与えよ。ロシアと合衆国を打倒しよう。然る後に、われわれは安んじて身を落ち着けることができるだろう。」ある日本人によるこの指摘は、わたしをひどく驚かせた。このきれいに掃除してしまいたいという欲望が。
 日本は掃除狂(マニア)なのである。
 わたしのように割合と汚れた人間の考えによれば、洗濯なるものは戦争と同じで、何かしら子供っぽいことなのだ。何故というに、それはしばらく経つと、またやり始めなければならないものだからである。
 だが、日本人は水と「サムライ」と名誉と仇討とが好きだ。「サムライ」は血の中で洗う。日本人は空まで洗ってしまう。日本の絵の中に汚れた空を見たことがあるか?だが、それにしても!

アンリ・ミショー「アジアにおける一野蛮人」(彌生書房、小海永二訳) - 原文傍点を下線に変えてあります。

私のように割合と汚れた人間には最近の「掃除熱」はちょっとばかり?と感じられる今日この頃です。だが、それにしても?

2006/6/11 日曜日

米財務長官に本を食べさせられた男の話

アメリカの新財務長官はGSのヘンリー・ポールソンに決まりましたが、これに関しては有名評論家のDaniel Grossが「一流の人間がブッシュの財務長官なんかやるわけない」というのでSlateの4月7日付けの記事で、

ジョン・スノーには後継者が見つかるだろう。そしてその後継者は実業界から来るかもしれない。しかし、もしその後継者がAクラスのウォール街のCEOだったら、私は「Dow 36,000」を一冊買って、第一章を食べても良い

という「予言」としていました(Dow 36,000というのは米国のハイテク・バブルの時に「ダウは36000になる」と書いたトンデモ本です)。で、予想外のAクラスのヘンリー・ポールソンが財務長官になってマンキュー先生に「お上がりなさい」なんて皮肉を言われていたんですが、Daniel Gross先生、何とホントに食べてしまいました。

評論家はアホな約束をしない方が良いと言う見本のような話です。

Daniel Gross、「Dow 36000」を食べる

怪しい投資家たち

村上氏の話も報道を見てるといよいよワケ分からん話になってきているようですが、もちろん米国にも(とゆーか米国には)怪しい人々がいっぱいいます。相次ぐスキャンダル以来社内でのコンプライアンスに対する要件がかなりキツくなっている大企業でも簡単に白黒決められないハナシが山のようにありますから、PEファンドやヘッジファンドなどは推して知るべしという感じもします。

ちょっと古い話になりますが、ジム・クレイマー(日経CNBCで昔「クッドロー&クラマー」なんて番組やってましたね)の「ウォール街中毒者の告白」(いや、かってに書名訳しちゃってますが、原題は「Confessions of a Street Addict」)でクレイマーがGSでブローカーやってた時からヘッジファンドやってた時のオハナシを書いてるんですが、これも相当怪しいです。

クレイマーのファンドは12年間、年間平均リターン24%だったそうなんですが、ってことは手数料等を入れると30%程度(以上)はリターンがあったはずです。で、この12年間、ダウンした四半期は1回だけなんだそうです。で、30%のリターンが正規分布してたと仮定すると、48四半期でダウンが1四半期だけというのをもっともらしく説明できる数字はボラティリティが4%ちょっとでシャープ・レシオが7程度ってことになります。
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2006/6/7 水曜日

米国市場つれづれ

急落後50日線を試してまた急落と、何となく「いかにも」という感じのチャートになってきましたねぇ。私は眺めてるだけですが、、、、

売りを考えてる向きは、まだ待ちで跳ねて50日線を試す(上抜く)機会を何回か見て弱さを十分に確認してから「出動」というのが玄人さんなんでしょうが、、、まだ直近の高値を抜くと考えておられる向きもありますし、この先の展開はまだ分かりませんが。

ただ、景気拡大も強気相場も永遠には続きませんし(景気サイクル自体が無くなったとおっしゃる方も時々いらっしゃいますが・・・)、ここらへんで十分にガス抜きしておいた方が後々のためかも分かりません。バーナンキ先生も連銀の「伝統通り」一回アホになって「壊し屋」をやっといた方が後々気楽なんじゃないでしょうか。データ(それも失業やらインフレやら過去のデータ)が出るたびにみんな右往左往で、「フォワード・ルッキング」なんて言葉は少しの間ジョークの種にしかならないと思いますし・・・

2006/6/6 火曜日

quis custodiet ipsos custodies - 2

村上世彰氏が今度はインサイダー取引を認めたというので大騒ぎだったようですが、相変わらず報道は良くワケが分かりません。で、村上氏の言ってることもあんまりワケ分かりません。M&Aコンサルティングのサイトに「お詫び」の声明が出ていますが、それによると -

そのような中、2004 年11 月と2005 年1月にライブドアの堀江社長(当時)をはじめとする方々が弊社を来訪された際、同社がニッポン放送株式を5%以上取得したいという意向をお持ちであると伺いました。ただ、当時のライブドア社の財務状況に鑑みれば、ニッポン放送株式を5%以上買い集めることは不可能だと考えており、当該意向は、ライブドアの単なる願望だとしか受け止めておりませんでした

(中略)

しかしながら、上記のライブドアによる株式取得の意向は、証券取引法167 条、同法施行令31 条に規定するインサイダー情報としての5%以上の株式買い集め行為についての決定であると解釈されるものであり、このような情報を知った以上は、MAC アセットマネジメント社の実質的なオーナーであり、非常勤取締役である私は、同社によるニッポン放送株式の買付けを停止させる義務がありました。

というところが「自白」の核心部分なんでしょうか、なぜ素直に「インサイダー情報としての5%以上の株式買い集め行為についての決定であると解釈されるもの」となるのか良く分かりません。前段の文章では「インサイダー情報としての買い集め行為についての決定であるとは(少なくともその時点では)解釈されないもの」と主張しているようにも見えます。

もちろん「真実」はどうだったのかなんてことは外の人には知りようの無い事で、一応「こういうことにしておきます」という話なんですが、「何か軽い話で聞いちゃっただけなんだけど、よく考えると悪いことですよねぇ、反省して止めます。(まさかこれですごい重罪にはならないですよねぇ)」って話ですね。

頭の良い方なのでしょうから、きっと自分の時間とおカネの「ムダ」を最小化することを第一に考えておられることと思います。「素直に」「罪」を認めてできるだけ軽い罪で済ませて日本からバイバイ・・・なんて考えておられるのかもしれません。そうすると結構トンでもない前例ができそうですが・・・。

まぁ、実際なんで地検特捜部が頑張ってるのかも良く分からないとこなんですが。「本石町日記さん」とこではLDの時と同様にコワイ話が出てましたがどうなんでしょか?

2006/6/4 日曜日

Barronsも商品太鼓

今週号のBarronsのカバーは何と(と言うほどではないですが)、元クォンタム・ファンドのジム・ロジャーズでした。彼が1990年代からコモディティに首ったけなのは皆知ってますから、商品超強気のジム・ロジャーズのカバーへの登場はとうとうBarronsも商品太鼓の仲間入りかという感じもします(おまけにタイトルが「最後に笑うのは」みたいな感じで・・・)。

大体、過去の商品市場の強気相場は10-14年程度続いているので、(ロジャーズによれば)今回はまだ序の口という勇ましい話ですが(基本的に商品の生産能力増強=供給増加が製造業やサービス業のように短期間では何ともならず、供給増加も基本的にはなだらかなものではなくステップ関数的なものになるということを考えるとサイクルが株や債券より長いと言うのは合理的ではありますが)、ハード・アセットにお金が向かう世界と言うのは剣呑な感じもします。

ロジャーズの商品指数のRICIはエネルギー関連の組み入れ比率が44%とゴールドマンのGSCIの65%に比較すると低く、金属では貴金属ではなく工業金属の比率が高く、農産品では他の指数では完全に無視されている米や小豆を組み入れ、また、これまた他の指数では概ね無視されている木材やソフト・コモディティもある程度組み入れられているので、短期間のブーム勝負ではなく、全般的な原材料、農産物の需給逼迫を視野においているのが分かります。これは原資産の商品の重み付けに関して、他の商品指数が概ね生産をベースとしているのに対し、RICIが消費をベースとしていることからも(実質はあまり変わらないと思いますが)コンセプトの違いが示されているような気がします。

ところで、強気市場では大体ボラティリティが上がりますので、長期的な上昇ストーリーが当たるにしても外れるにしても商品派の方には当面ロジャーズ並みの神経がいるかもしれませんね。

2006/6/3 土曜日

quis custodiet ipsos custodies

村上世彰氏が東京地検特捜部から証券取引法違反疑惑で任意の事情聴取を受けたそうですね。いろんなとこで色々書かれていることなので特に書き足すこともありませんが、相変わらず検察が出所と思われるあまり中身のない情報が大量に流れる報道には少し食傷気味です。

ところで以前、違うところで違うトピックに関して書かれた文章

私には、アメリカと比べると日本では「違法行為」の網を広めにかけた上でお目こぼしをする、ひどくなってきたら1・2件摘発して「見せしめ」もとい「一罰百戒」効果を狙う、という弾力的運用が広く行なわれているという印象がある。

というのがあって少し気にかかっていたことがあるのですが(いや、まったく違う文脈で引用して大屋先生すみません。ぺこり)、どうもインサイダーでも日本の場合グレーゾーンがとっても広くって少し行政側の裁量の範囲があり過ぎるんじゃ、、という気もします。規律が高まるのはもちろん結構ですが、あくまでルールあっての規律であり、市場は裁量を非常に嫌うものなのですが・・・(おっと、もちろんインサイダーを許せと言っているものではありませんので)。

実際には裁判で判断が積み重ねられるのを待つしかないのかもしれませんが。