2009/8/5 水曜日

さてと、2人の米国人ジャーナリストの解放(「恩赦」だそうですが)が決定されたというのは良かったとして、ビル・クリントンほどのステータスにある人間が行くのですから、お互いそれだけではないというのは明らかだと思います。
逆に言えば、北からすればクリントン・クラスの人間を引き出すためにこそ必要だった「人質」であり、米国にすればクリントン・クラスの人間を送り込む「口実」になったとも言えます。
米国人も北朝鮮人も日本人ほど健忘症ではないので、以前もカーターが訪朝した後、米朝関係は「リセット」となり、クリントン政権と北朝鮮とのいわゆる「米朝枠組み合意」が成立したということを押さえておいても良いと思います。
最近の大統領としては、私はクリントンをかなり高く評価しているのですが、米朝枠組みに関しては(ズボンのチャックがだらしないところと同じく)大きい例外の1つで、北朝鮮に上手くしてやられただけではないかと思っています。
しかし、米国の民主党系のインテリの方々はそうは思っていない人が多く、クリントンの築いた枠組みがもう一歩で成功しつつあったのに、ブッシュが登場してそれをぶっつぶして、そのために北が核開発を進めたと考えている向きが多いということも、忘れっぽい日本人は押さえておく必要があります(一例としてKaplanの記事)。
(私は、これは極めて米国中心的な誤った見方だと思っています。これらの方々の考えは、たとえて言えば、ルースベルトが大日本帝国を締め付けていなければ、日本は帝国海軍を廃棄しただろうというようなものです)
オルブライトが金正日と並んでマスゲームを楽しく見てからまだ10年も経っていません。そしてオバマ大統領の就任直前の金融サミットではオルブライトがオバマの名代を務めたことからも分かるように、クリントン政権時代の名残りは現政権にも強く残っています(イマニュエル氏をはじめ、ホワイトハウスの要所要所にもクリントン時代のスタッフが就いています。まぁ、それに言うまでもなくヒラリーが国務長官をやっているわけですが)。
現在、イスラエルでも、イランでも、そして北朝鮮でも外交面で少し行き詰まっている感のある米国からすれば、再び「第2次米朝枠組み合意」で振り出しに戻る(今度は北朝鮮はもう核保有国ですから、北の政権からすれば「上がり」のあとであって、振り出しではないですが)という可能性もあるかもしれません。オルブライトは2006年にプリンストンでの学生に対する講演で「対北朝鮮政策を中国に委託することなどできない。北朝鮮はアメリカとの対話を望んでいる」と述べています。
日本からすれば、「核保有国」の(そして必ずしも友好的ではない)隣国と付き合っていくということに直面せざるを得ない、長い時間の始まりになるのではないでしょうか。
2009/6/26 金曜日
郵政の社長の解任とか、民営化見直しとか、いつまで回れ右をすれば気が済むんでしょうか。
ほとんど転用もできないような赤字資産を従業員付きで引き取って頂くという話の何が悪かったのか良く分かりませんが(キャッシュフローを生まない「財産」は借金と同じです)、政治家の本分は事業価値の最大化ではなく、国民財産の保全でもなく、単に得票の最大化なので、こういうことも別に驚くべきではないのでしょう。
米国でも、政治家が新たに「手に入れた」GMが早くもオモチャにされていて、拠点の閉鎖が地元政治家の圧力で白紙に戻ったりということが起こっていますが、まだGMの国営は少なくとも暫定的というコンセンサスがあるだけましです。
郵政が企業としてやって行けるのかどうかは分かりませんが、それはどこの企業でも同じです。早く愚かなことに時間と労力を割くことをやめて、さっさと民営化するか、それがいやなら解体して売却する案を出すとか(まぁ、温泉旅館の売却ですらこの騒ぎですから、政治的に実現可能性はゼロだと思いますが)、前向きの案が出せないのでしょうか。国が資源をつぎ込んで下手な経営をすべき事業であるとは到底思えません。
しかし、この体たらくの原因の大部分は首相の無能さにあると思いますが、英国のブラウンもそうですが、やめないんですねぇ。こーゆー人は。後継者もいないし、国民の選挙もナシでの3人目の首相ですから、やめて別の人にというワケにもいかないと思いますが。
「友愛(Compassion)」というのは、とても良いスローガンだと思いますが、向ける対象を間違っています。鳩山さん。
(後記:ところで、これは西川社長が適任だという記事ではありません。個人的には西川氏は社長にあまり「ふさわしくない」のではないかと思っています)
2009/6/24 水曜日
ホワイトハウス前で「自由を愛する」イラン人のデモが行われたそうです。数百人と小規模なようですが、んんん?
国旗が違う・・・ 何と皆さんパーレビ国王時代の旗を振っていらっしゃいます。しかも、その後には昔のパーレビ国王のご子息まで登場したようです(パーレビさんは、最近色んなところで登場しておられますが、「もし私が選ばれたら国のために務める用意がある」そうです・・ )。どわー。CNNなどでも極めて好意的に取り上げられています。
私の知り合いのイラン人には、イスラム革命で国外に逃げ出したインテリ連中のご子息なども結構いるのですが、さすがにパーレビ体制が良かったというのは(当時の体制で甘い汁を吸っていた連中を除いて)あまり聞いたことがありません。少しでも体制批判すれば、秘密警察サヴァクに引っ立てられるという恐怖政治だったわけですから。
当時イランに駐在していた日本の方の話などを聞くと、日本語でシャーの悪口を言ってもどこからかサヴァクに通報されるとのウワサまであったそーです。で、もちろん、パーレビ政権は、それ以前の民主的に選ばれたモサデク政権を米国がクーデターで倒して打ち立てた「立憲君主国」だったということを考えると、上のデモは一体どなたが組織されたもんなんでしょうか?
で、今までの展開を私なりにまとめると:
1. 選挙はアフマディネジャドが実際に勝っていた可能性が極めて高い。
イランの大統領の権限はそれほど強くないというのは、ハタミの時もラフサンジャニの時も言われていたことです。アフマディネジャドだけが例外とも考えられません。ムサビやラフサンジャニの反対行動を見ても、革命政権の中枢部内部でさえ強い対立があることが分かります。
そのような状況で組織的に問題も起こさず全国的に1000万票以上もの不正ができるとは少し考えにくい様な気がします。事前の(海外の組織が行った)全国的な世論調査でも(選挙結果以上の)大差が付いていましたし。
2. 選挙後の騒乱は「出来レース」か?
ムサビは開票が始まる以前に勝利宣言をしていました。投票結果がどうであれ、それを認めないという意思表示です。そしてその通り、開票直後に反対派を率いて大規模な抗議活動を行いました。この強気の理由は分かりませんが、自分たちに対する政治的攻撃があれば大変なことになるぞという、ハメネイに対する示威行為ではないでしょうか。
ムサビの後ろ盾のラフサンジャニやハタミが巨額の富を有しているのは多くのイラン人が知っています。これらの政権幹部は、海外メディアの常宿の5つ星ホテルも多数あるテヘラン北部の超金持ち地帯(昔のパーレビ政権の幹部が住んでいた地帯)を支配していますが、こうなった経緯にはもちろん疑惑があります。
しかし、革命政権の正当性にかかわるものだけに、この疑惑は公然とは語られていません。それが、アフマディネジャドが、選挙前のテレビ討論で、国が苦しんでいた時期にラフサンジャニなどが不正蓄財を行っていたと爆弾発言したもんですから視聴者の間では結構な騒ぎだったようです。
ムサビやラフサンジャニやハタミこそが革命政権の腐敗から甘い汁を吸ってきた連中で、自分こそがその不正と戦う改革派なのだというポピュリスト的なポーズだったわけですが、これは貧乏人の大衆には受けた一方で、ムサビなどからすれば、アフマディネジャドが本当に危険な男であると分かった一瞬だったのではないでしょうか。おそらく、選挙後に示威行動をしないと、何をされるか分からんと思ったのではないでしょうか。
3. 外国メディア
この騒乱に外国メディアが飛びついたわけですが、それに関しては前のエントリーで書いた通りです。イラン人は過去の痛い経験から何かあるとすぐに英国人(米国人に対するよりも恨みは深いようにすら感じます)の陰謀のせいにするクセがあって、今回もBBC追放という形でそれが現れていたのは面白く感じました。実際、モサデク打倒で米国をそそのかしたのは英国だそうですが。
ただ、欧米のメディアにはやはり「後進的なイスラム体制」という抜きがたい蔑視感情があるように思えます。報道が完全にバランスを失っていると感じた者も少なくないはずです。今まではガザでもイラクでも「残酷な場面」の報道をある程度自粛してきたメディアが、今度はイラン人女性の残酷な殺害現場ビデオを休む間もなく報道するのはかなり異常に感じます。
私はイランの現政権による核武装は封じ込める必要があると思っていますし、イランの民主化も結構なことだと考えています。それが武力などによるものになる可能性があることも認識しています。しかし、それでも今回の選挙後の展開には極めて居心地の悪い空気を感じます。この感覚は全然上手く説明できないのですが、ひょっとするとそれは、私も戦争により「政権転覆」された国の人間だからかもしれません。
2009/6/22 月曜日
イランの選挙(後)報道はますますヒステリー状態で、偏向の度合いも極めて激しくなっているように思えます。全然アフマディネジャドには好意的ではない私が、この件に関する話では、なぜか逆の立場に立たされていたりして苦笑せざるを得ません。
米国では報道されるデモの光景も反対派のものばかりで、政権支持派のデモはほとんど無視されています。あまりイランの現政権には好意的ではない米国在住のイラン人の知り合いにも「これはイランを攻撃しやすくするための大規模なプロパガンダではないか」と心配している向きがいます。一つ例を出すと、以下は見て分かるようにアフマディネジャド支持の集会ですが、

同日の集会が、BBCニュースでは以下のようになり、

ご丁寧にも「ムサビ支持者(反対派)は再び抗議の禁止を無視した」というキャプションが写真に付いています。この例では、BBCは読者からの指摘を受けて、「不注意でした」との「お詫び」を掲載していますが、一体どんな「不注意」なんでしょうか? BBCでこれですから、この他にも指摘を受けないまま「正しい」ものとして流されている情報が山のようにあると思われます(BBC支局長には当局から退去命令が出たようですが、これでまた大騒ぎになるんでしょうねぇ)。
昔CIAにモサデクを倒された経験を持つイラン人が陰謀を疑うのも無理はないような気もしますが、このようなことがなぜ起こるのでしょうか。
1. 欧米のメディアの中東拠点が、コスト削減で無くなったり弱体化している。おそらくテヘランにいる記者の多数は「サラーム」程度のペルシア語しかできないんじゃないでしょうか。もともと改革派の多い大都市のテヘランで、英語での取材をすればニュースの結果は見えているような気がします(しかし、イラン人の反対派が英語のプラカード持って一体誰にデモしてるんでしょうねぇ)。
2.「民主主義バイアス」:「非民主的な政権と、それへの反対派だったら、反対派が正しいに決まっている」。底流には「選挙は民主主義的なもので、反民主主義的な奴が選ばれるはずがない」という欧米人の「信念」みたいなものがあるような気がします。例えばパレスチナに関しても、多くの米国人が「脅しなどのないフェアな選挙ならハマスが勝つわけがない」なんて言ってます。
3. 「売れる記事へのプレッシャー」:国中に2みたいなバイアスのあるところで、「いやー、アメリカ人が思ってるよりアフマディネジャドへの支持は強いみたいよ」なんて言ったら石でも投げられて、悪くしたらクビになりかねません。ニュースもショーバイですから、消費者の嗜好に合わせる必要があるのでしょう。
しかし、こういうことで外交にも影響を与える世論が形成されるとしたら少しばかりおそろしいことです。
アメリカや日本にいると良く分かりませんが、アフマディネジャドというのは「(欧米人から見て)無知で貧しい」大衆に相当の人気があります。インドネシアにアフマディネジャドが訪問した際にも、外国首脳の訪問とは思えないような熱狂的な歓迎ぶりで、大変な大騒ぎだったようです。
ムサビでもアフマディネジャドでも核開発は進んでいるでしょうから、いずれにせよ制裁強化やイスラエル/米国による攻撃の可能性はあるわけですが、これで確かに世論的には攻撃はしやすくなったかもしれません。キッシンジャーなどもテレビで外からの圧力による体制転覆を説いています(懲りない人達です)。
(ついでに言うと、いろいろ話題になっているTwitterでのイラン情勢に関するTweetに関しては、その出所を追跡するとかなり面白いことが分かるのではないかと思います)
(追記:ところで私は人間の自由を奉じているので、イランの現政権は全然支持しておりません。そこらへん誤解なきようお願いします・・・)
2009/6/19 金曜日
議会では今日のところはFedへの権限集中に議論が集中していました。確かにそれも重要な点ではあると思うのですが、今回の規制改正案で意外だったのは、マンモス金融機関・業界の分割という方向性が全く欠けていたことでした。
出し手が低リスクと考えて出した資金を左手で受け取って、それをそのまま右手で賭博に出せるようなコングロマリットを、Arms-Lengthでお互いのビジネス・リスクを監視し合う、相互に独立したスペシャリストに分割するという方向性がほんの少しは出るのではないかと想像していたので、それと全く逆行する方向性が出されたのには驚きました。
「逆行する」というのは、改正案では「破綻した場合には金融の安定に対する脅威になると見なされる」(つまり超大手の)金融機関に関しては、連邦準備制度に対して特別な規制を行う権限を認めている点と、しかも大手金融機関に破綻の恐れがある場合には、財務省がその機関を(破産させるのではなく)「安定化」することができるという点です。
このような金融機関は、政府・金融当局が「大きすぎて潰せない」と公認したのと同じですから、市場において断然有利になる可能性があります。どうも、オバマ政権のビジョンは、少数の超大型規制当局が、市場を支配する少数の超大型金融機関を監視するというものなんじゃないかと思ってしまいました。まぁ、サマーズ大将が取り仕切っているようですから、大手の競争力に水をさすような改革はもともとあり得ないのかもしれませんが。
一方、英中銀のキング総裁は17日のスピーチで「もしある銀行が大きすぎて潰せないと見なされるなら・・・・その銀行は大きすぎるということだ」とし、続けて「大手銀行に対して市中銀行とリスキーな投資銀行を統合することを認め、そしてその破綻に対して暗黙の国家の保証を与えるのは賢明とは言えない」と述べており、超大型金融機関の分割に前向きともとれる発言をしています。
実際には英国の金融庁なども、(シティの競争力に悪影響を与える可能性のある)グラス・スティーガル流の分割には反対なので、こういうアイデアがストレートに規制に反映されることはないかもしれません(ただ、現在世論調査で大幅にリードしている保守党は、キング総裁の意見に近いような感じですが)。
しかし、単純な分離・分割ではないにしても、昨年末の当座資金の完全な干上がりという事態と、それが引き起こした市場の恐怖を思い返すと、リスク資産と非リスク資産の間にはどこかの線で、そして何らかの形でのファイアーウォールが必要なのではないかとも思われます。以下にキング総裁のスピーチのテキストのリンクを載せておきますので、興味のある方はどーぞ(PDFです)。
キング総裁のスピーチ(PDFです)