2007/8/12 日曜日
先週は目の玉が回る状態で、あんまり何が起こってるのか良く分かっていなかったのですが、ECBやらFedが何やら気前良くお金をばらまいていたようです。
Fedが木曜に240億ドル、金曜に380億ドル(190億、160億、30億のトランシェ)
ECBが木曜に948億4,000万ユーロ、金曜に610億500万ユーロ(まぁ大体2,136億ドル)
あとは、カナダ(15億5,000万米ドル程度)、日本(84億米ドル程度)、スイス、オーストラリア、シンガポールなどがちょろちょろという感じですが、ECBとFedは(他も大体そうでしょうけど)基本的にクレジット市場の動揺で金利が急上昇したのに対応したオペでした。
びっくりするのがやはりECBの供給額で、皆さん目を剥いてました。規模を分かりやすくするために言うと、ユーロのベースマネー(M0)が大体合計で8,000億ユーロですから、ベースマネーの10%以上のお金を1日間でじゃぶじゃぶ流し込んだ計算になります。
木曜の皆さんの第1反応は「どっかで火事か?」とか「何かあるに違いない」とか「・・・」というものでした。驚いたり深読みしたりしてるうちに米国でもオーバーナイト金利が6%を飛び抜けちゃったので、FedがちょろちょろっとMBSやら国債を引き揚げて米国は木曜のオワリには5.25%に落ち着きました。
で、最初に口火を切った欧州なんですが、つい先日も、ドイツ産業銀行(IKB)がサブプライム・ローンの影響で親会社のドイツ復興金融公庫(KfW)が80億ユーロもの保証を強いられたり、ドイツ政府が救済に乗り出したりで(意外な名前が出て)少しばかり神経質になっているところに、BNPパリバのファンド閉鎖のニュースだったので、おそらく多くの銀行で「絶対貸すな」という号令でも出たんでしょうか、金利はあっという間に4.6%を突き抜けてしまいました(一番下の図)。
欧州は一応市場の規制はEU圏共通ですが、実際の銀行の監督業務は各国の権限です。で、国によって監督のやり方も、監督を行うシステムも組織も異なっています。例えばスペインやイタリアだと銀行の監督は中央銀行ですし、オーストリアとかだと政府官庁、ドイツやフランスは中銀と特別の監督機関の共同責任とかになっていて、おまけに同じような差異が証券なんかの各市場でも存在して、米国人などから見ると本当に「エキゾチックな」市場で想像がつかなくても仕方がありません。
というわけで、欧州は各銀行から見ても、ECBから見てももともとデザイン的に極めて「見通しが悪く」何かあると疑心暗鬼になりやすい環境なんで、ECBがえいやとばかり「デパートのバーゲン」式に無制限の(といっても担保付きですが)スペシャル・テンダーをしたら、各銀行がそれこそデパートのバーゲン会場でのつかみどりよろしく掴めるだけ掴んだという感じではないかと思われます。火元に直接振りかけるのではなくて、突然全館一斉にスプリンクラーを回したようなもんですから、そりゃまぁ大変なことです。
この手の「無制限のデパートのバーゲン」は911のテロ以来ですが、911の時も1日か2日か忘れましたが1,000億ユーロ程度が「捌けた」ような記憶があります。というわけでECBが緊急で「スプリンクラー」を回すと「1目盛り」1,000億ユーロが相場ということではないでしょうか。これを「ファイン・チューニング」というのは、英語力に問題がありそうですが。
(8/13 : 今日も朝方4.15%までもたげたようですが、470億ユーロを追加投入して押さえ込んだ模様。銀行のビッドは相変わらず840億ユーロ程度あったようです。)

コメント (2)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/289/trackback
2007/7/24 火曜日
ドイツ政府が次世代サーチ・エンジン技術のリサーチ・プロジェクト「Theseus」に1億2,000万ユーロの補助を行うことを欧州委員会が承認したと言う記事が少し以前に出ていました。
ニュースによると、ドイツ政府は最初にシーメンス、SAP、エンポリスなどに資金を出した後は、プロジェクトの進行に応じて小規模の会社にも資金を出すとのことです。EUでは、フランスも同様の「国家的検索エンジン・プロジェクト」でトムソンに補助金を出す件で欧州委員会と交渉中で、何としても米国に対抗したいという欧州各国の政府やブリュッセルの意向が見えます。
「エアバスの夢よもう一度」ということかもしれませんが、「米国に対抗」するために、「政府が戦略的テクノロジーをピック」して「補助金を出す」という構図自体に既に欧州のダイナミズムの衰えようを感じてしまいます。欧州でも技術者の対米流出が結構起こっていますが、政府が力を入れるほど「シラける」向きも多くなるような気もいたします。
話は変わりますが少し以前に、欧州のハイパフォーマンス・コンピューティング・イニシアティブ(欧州レベルで世界最高級のペタスケールのスーパーコンピュータのセンターを建設しようというプロジェクト)に関して議論したことがあったのですが、その時に渡された「予備的なスタディ」は文書だけでも合わせて軽く200ページはあるという代物でした。
中に入っていた「Scientific Case」では、欧州レベルでスーパーコンピュータのセンターを作れば、地球温暖化のモデリングがより精緻にできるので温暖化の防止の役立つとか、タンパク質の折りたたみ間違いの解明が期待できるとか、次世代のヘリのモデリングがどうだとか、結構「マジメ」なことがびっしりと書いてあって、どっかの国の研究者の「お金ちょーだい」文書のぺらぺらの「Scientific Case」なんかと比較するとやはり良く出来ている気もしました。
しかし、気になったのは、地球温暖化を防ぐためにどーだこーだと言いながら、常に最後に出てくるのが、「欧州レベルで世界最高の施設を作らないと米国に対抗できない」とか「米国や日本では戦略的にスーパーコンピュータで優位に立とうとしているから、欧州も同様にしないと欧州の科学が世界一線級でなくなる」ってな感じの文章だということでした。
この手の「(政府の力で)科学よりも対米対抗」とか上のサーチエンジンでは「(政府の力で)技術/ビジネスよりも対米対抗」とか感じさせるところに、何となく欧州の周縁化というか、科学者、技術者、実業家の志の低下と言うか、ある種の病を感じてしまいました(それに、同じようなところで税金使って対抗しなくても進んでいる部分は別に一杯あるのにねぇ)。ただし、人によって感じ方はいろいろあるみたいで、私と一緒にスパコンの文書見た人は「さすがに欧州は戦略的に頑張って考えてる。日本の政府はどうなってんだ」なんて言ってましたが・・・
あと、欧州レベルって言ってもプライドの高い国の集まりなんで、結局どこに何のセンターを作るんだとか、コンピューティング時間をどう配分するんだとか、各国に各分野のCOEを作るんだったらどこの国が何のCOEをとるんだとか、コンピューティングの面でもグリッド派やスパコン派や、たぶんまたずーっと延々とやるんでしょう。サーチエンジンのプロジェクトでも結局ドイツとおフランスで分裂でしたし。あぁ、ヨーロッパ。
欧州検索エンジン・プロジェクト
欧州委員会のリリース
APのニュース
ついでに
欧州ハイパフォーマンス・コンピューティングのScientific Case(PDFです)
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/285/trackback
2006/12/8 金曜日

現在、欧州における二酸化炭素排出権取引スキーム(EU ETS)の第2フェーズ(2008-2012年)の排出枠を決定するプロセスが進行中です。これは、EU ETSの対象となる欧州企業がこの期間に排出できる温室効果ガスの総量を決定づけるものなので、極めて重要なものであると言えます。
もちろん各国は自国業界の保護のためにできるだけリクツを付けて大きい排出枠を提案し、それに対して欧州委員会が各国の過大な提案をできるだけ削ろうとする、という構図になります。
第1フェーズ(2005-2007年)では、今年4/5月に発表された2005年の検証データにより排出枠が「枠」とは言えないくらいに大きい(つまり、排出を減らす必要がないほどに排出枠が甘かった)ことが明らかになり、排出権の価格は数日の間にメルトダウンしました。こういう背景もあり、第2フェーズの割当では欧州委員会がEU ETSの成否を賭けて各国政府の提案に対し強硬な態度に出ると予想されていました。
実際、11月末には、欧州委員会は、その時点で提出されていた10カ国の(極めて優等生的な英国を除く)すべての提案に対して約7%の削減を要求し、排出権の価格もやや持ち直しました(記事冒頭のグラフ:Point Carbonのサイトより)。しかし、この回復の後でさえ、かつては30ユーロ前後であったEUA(EUアローワンス)価格は7ユーロ台中盤と見るカゲもありません。何がマズいんでしょうか。
ストレートに見ると、市場は欧州委員会がどれほど頑張ろうと、排出権の供給が逼迫することはないと踏んでいるワケです。この背景の一部には、途上国で行った排出削減プロジェクト(CDM:クリーン開発プロジェクトなど)による削減量の一部も自分の排出権としてカウントできる、といういわゆる「京都メカニズム」による排出権の供給が急増していることがあります。(実際には欧州の多くの国では自国内で使用できる海外調達排出権の量に制限をかける見込みなので、それがどの程度になるかという状況次第では、また展開が異なってくるかもしれません。また、この他にも、ロシアやウクライナの巨大な「潜在的余剰」というのもあるわけですが。)
(more…)
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/263/trackback
2006/6/30 金曜日
EU排出権取引スキーム(EU ETS)における、2005年の排出量の検証結果が5月の中旬に発表されて、排出枠に対する予想外の排出量の低さで市場はぐちゃぐちゃになっていましたが、検証結果を見れば見るほど色々面白いです。もともと欠陥の多い超人工的な市場で欠陥と参加者や需給の動向の関係やらで市場の勉強にはもってこいなのですが、そこらへんの面白い話は今度時間のある時にでも。
排出量が排出枠に比較して低かったというのは、もちろんすごく省エネが進んでいるからではあまりなくて、排出枠が単に大きかっただけという面がかなり大きいのですが、面白いのは国別の状況で、一番排出枠が余って楽なのがドイツ(21Mtのアローワンス余剰)とフランス(19.1 Mtの余剰)になっています。でもって一番厳しいのが英国(27.1Mtの排出過剰)となっています。ちなみにEU全体では約65 Mtのアローワンス余剰と排出権はだぶついています(少なくとも2005年は)。
で、さっきも言いましたが、この結果は別にドイツとフランスで省エネが進んでるからでも、英国がさぼっているからでも全然なくて、見ようによっては各国政府がどれだけ(不)真面目に取り組んでいるかのバロメーターとも言えます(排出枠は欧州委員会と各国政府の政治的綱引きで決まる部分も大きいので、排出枠が大きいってことはそれだけ自国産業が二酸化炭素を大量に排出できるように政府が頑張ったってことですから)。
で、EU ETSはもともとEUの「威信的」プロジェクトの1つだったワケですが、とかく「自国産業に不利」とか「排出枠がキツすぎる」とかブータレながらも排出枠設定当時はまだEUを主導していたフランスとドイツが仲良く自分たちのフトコロだけは確保していたワケでこれはやはり大したものです(?)。ただ実績データが出たと言うことで、今度の排出枠割当では欧州委員会も甘くはないと思いますが。
一方英国ですが、ブレアが京都議定書目標よりはるかに厳しい「自主目標」を掲げていただけあって、EU ETSの排出枠もそれなりに厳しかったということで少なくとも「言行一致」は示されたようです(おっと、行動はそれほど伴っていないので「言言一致」でしょうか)。
ところで欧州全体では国ごとにデコボコもありますが、2008-2012年の間の京都議定書目標自体は射程に入ってきているようです(まだ排出超過の見込みですが)。現時点で一番ヤバそうなのはカナダと日本ということのようです。
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/245/trackback
2006/5/6 土曜日

EU排出権取引取引スキーム(EU ETS)における価格がメルトダウンしています。上の図(Source: PointCarbon)でも分かりますがつい数週間前まで30ユーロ程度で安定していたEUA(EUアローワンス)価格は12ユーロ程度まで急落しています。
これはフランス、オランダなど数カ国が2005年において二酸化炭素排出量が割当量を下回ったと発表したためで、おまけに大排出国のドイツの排出量も割当量を下回ったという(未確認)報道がパニックに追い打ちをかけた状況になっているためです。
原油の高騰->コスト安の石炭使用の上昇->二酸化炭素排出の増加->排出権価格高騰というストーリーが完全に外れたワケで、ロンドン証取ではカーボン金融からみの会社は軒並み下落、排出権を山ほど抱えている企業の株も下落となっています。高値を当て込んで最近CDM投資の呼び込みに熱心だった途上国の排出権商売熱にも少し影響が出そうですね。
しかし、排出枠という市場最大のファンダメンタルがEU委員会と各国政府の綱引きという政治要因で決まるEU ETSの最大の弱点が垣間見えるような値動きでもあります。
コメント (4)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/225/trackback
2006/3/11 土曜日
ロンドン証取(LSE)は米国Nasdaqによる41億7,000万ドルの買収提案を拒否したようです。まぁ、買収金額が低すぎるってことらしいんですが、この金額は2006年度のLSEの利益をベースにしてもPER26倍に当たりますから、それほど高成長ではない業界では相当高いものです。
LSEの株価自体、相次ぐ買収提案で高騰しておりここ1年で倍程度になっていますから、それに対する8%のプレミアムでも拒絶というのは相当な強気と言えます。ただ、この間のオーストラリアのMacquarie Bankグループによる買収提案を拒絶したとき程、えげつない拒否の表明ではないので、LSEとしても今後のNYSEなどの動きも考えて柔軟な物言いにしているという気もします。
LSEは欧州大陸の主要取引所としては(意外なことに)取引所自体の時価は小さい方ですから、今後もこの手の提案は結構あると思いますが、今度の拒否は今までのと比べても紳士的(?)な感じなのでNasdaqやNYSEとの(どんな形にせよ)今後の提携話は有り得るという気もしました。。
ところで今回の提案で英国人連中が一番気にしていたのが、ロンドン証取が外人に買収されることではなくて、Nasdaqに買収となったらLSEに上場してる企業の報告基準にまで悪名高きSECが口をはさむんじゃないかということで、ここらへんずっと買収慣れしていて、所有と法規制の権限と言う問題がアタマの中できっちり分かれているシティの連中っぽいって感じでした。
WSJ($)
コメント (2)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/216/trackback
2005/11/12 土曜日

フランスでの暴動の記事を色々読んでいると、フランスの移民統合政策の失敗だとかが書かれていることが多いですが、やはりフランス革命以来の「人権の国」というイメージが大きいせいか、どちらかというと「無法な暴徒」に対して強硬なフランス政府の行動に対する大きな批判は見られないようです。
しかし、フランス各都市の郊外の移民の状況、および彼らに対するフランス当局の扱いは相当以前から極めて劣悪で、北アフリカ、アラブ系移民のフランス生まれ世代の怒りは溜まりに溜まっていたというのが現実だと思います。ただ、シラクの中道右派政権がまだそれなりに力を保っていたために暴発しなかっただけではないでしょうか。
日本ではあまり報道されていませんでしたが、フランスは今年の4月にも人権団体のアムネスティ・インターナショナルから、フランス都市郊外の非白人に対する、当局による人種差別、拷問や、時には死に至るような暴力行為が野放しにされているとして、先進国ではまれな激しい非難を浴びせられていました(下記リンク)。それにもかかわらず、シラクはドビルパン、サルコジと言った「人気内相」に対してなんの手も打てず、すでに7カ月が経過しており、少なくともシラク中道右派政権の統治能力は地に落ちていたと言えるでしょう。
こういう暴動は政権の強さ弱さには極めて敏感ですから、この統治能力の失墜と暴徒の蜂起は偶然の一致ではないのではないでしょうか。1968年、無力化したドゴールのお膝元のパリが5月革命の煙に巻かれたように、政権が問題に対する変革能力を失ったと見られれば、「暴徒」たちが自らで何らかの変化を起こすという意味では、いかにも「フランス革命」の伝統に従った、極めておフランス的現象と言えるのかもしれません。
参考リンク:アムネスティ・インターナショナルによる今年4月の対仏人権批判
http://web.amnesty.org/library/Index/ENGEUR210012005?open&of=ENG-FRA
http://news.amnesty.org/index/ENGEUR210062005
http://news.amnesty.org/index/ENGEUR210102005
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/162/trackback
2005/11/4 金曜日
欧州中銀(ECB)の政策委員会は、大方の予想通り金利を据え置きました。オーバーナイト金利は2003年6月以来の2.0%となっています。
トリシェはインフレに関して、ヘッドラインの2.5%は望まれる水準よりは高いものの、「域内のインフレ圧力はない」と面白いことを言ってます。またエネルギー価格の影響もあり「短期的にはHICPは高めに推移する」としています。また欧州中銀のもう1つの政策目標であるM3の伸び率が目標を遥かに超えた8.5%となっていることに関しては、「低い金利水準の影響の増大を裏付けるもの」で住宅価格の監視が必要としています。
しかし、ECBのインフレ・ターゲット2.0%、M3の伸び率ターゲット4.5%の金融政策目標の両者が完全に破られて以来(M3に関してはユーロ導入以来ずっとですが)、アクションも政策フレームワークの調整もほとんど何もなく、トリシェの口先介入だけという状態が続いており、クレディビリティとか透明性とかいう言葉以前の問題のような気もしますが・・・インフレに関してはおそらく、そのうちEurostatがコアインフレの導入でもしてお茶を濁すんでしょうか? 他のいくつかの欧州組織と同じで、そこはかとなく「ダメダメ」っぽい香りが何となく・・・
ECB声明
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/153/trackback
2005/8/12 金曜日
原油が高騰していますが、昔ちょっと話題になった100ドルって話もまた復活するかもしれませんね。ところで、それに負けないくらい印象的な価格上昇を見せているのが二酸化炭素の排出権です。下のグラフは欧州排出権取引スキーム(EU ETS)での排出権価格ですが、今年の初めの1トン当たり7ユーロ前後から6月には25ユーロを超える勢いでした(現時点ではかなり反落していますが)。

これは、京都議定書のターゲットを達成できない国が相当数あるという見方を裏付けるものですが(つまり、排出できる量:排出権の需給悪化が想定されるってこと)、もう1つはEU当局が排出枠に関してある程度厳格な立場を取り続けるだろう、という市場の当局に対する「一定の信認」の表明ともとれます。
ところで、京都議定書のターゲットを(まっとうな方法では)達成できないだろうと見られている最右翼の国がカナダと日本だということはあんまり知られていないようですね。クールビズなんてのんきなことやってますが。
それなりに進んでいるのは上にあげた欧州で、域内の25カ国にある13,300の大規模な二酸化炭素排出企業/施設(発電とか地域暖房とかね)に対し、強制的な排出枠が割り当てられ、排出枠を下回った場合はEU ETS市場で排出権を売却できるし、逆に排出枠を超えそうな企業は排出枠を遵守するためにETS市場で排出枠の購入ができるというものです。
排出枠を超えた場合は重い罰金が課されるため、企業はいやでも自社施設の排出枠に神経質にならざるを得ません。排出権市場は米国でのSOx排出削減での経験をもとにして創設されたもので、市場メカニズムに沿った形で経済的にこの手のあんまり有り難くないものを減らすには有効な政策手段であることが確認されています。
さて、日本に関してはこのような国内排出権取引システムも存在せず、海外の大方の見方は「日本は多分議定書の目標は達成不可能、でもまっとうじゃない方法で達成するかも」というものです。
つまり、カギはロシアとウクライナなんですが、京都議定書のもとではこの両国は二酸化炭素をまったく減らす必要がない、、、というより現在の排出量より排出枠の方が極めて大きくなっており、余分な排出枠を外国に売却して大儲けできるという状態になっています(なんでこうなったかに関しては、長くなるので省略・・・)。この余分な排出枠は、実際の二酸化炭素排出削減には関係なく、しかも投機的目的で使用される可能性があるため「ホットエア」と呼ばれています。で、日本はロシアに大金を払ってこのホットエアを購入してメンツを守るんじゃないか(そしてロシアは足許見透かしてすごい価格をふっかけるだろう)というのが海外では大方の見方なわけです。
一方のカナダに関してもホットエアを購入するんじゃないかという見方もありましたが、カナダ国内ではホットエアなんかを買ってまで目標を達成するということに対して大きな反対があり(まっとうですね)、主要閣僚がすでにカナダの議定書目標不遵守の可能性を示唆したりしています。それでもカナダでは大規模最終排出事業者(LFE)に対して排出枠を強制し、欧州と同様の排出権取引システムを導入することはほぼ決定的になっています。
のこる日本ですが、2005年から環境省主導で試験的な国内排出権取引システムが始まります。しかし、自主参加型(つまり強制力がなく参加自由)で、参加企業には電力などの大規模排出事業者は含まれず、しかも参加表明した企業には政府が排出削減のための投資に対する補助金を支払うという、実効性はほとんどゼロの補助金垂れ流しのおそろしいシステムです。これでは排出削減のコストが税金を通じて間接的な形で賄われるため、排出権の市場価格に反映されないだけではなく、企業の製品コストにも反映されません。
これでは普通では市場に反映されない二酸化炭素の排出コストを人為的に市場に反映させ、排出レベルを本来経済的に許容できるレベルに(しかも効率的に)下げるという市場メカニズムをまったく無視したものになっています。しかも、試験システムで企業が表明した「自主目標」は27万6,380トンでメチャクチャ少ないんですが、それに対する補助金の予算が26億円ということで、1トン当たりナンと68ユーロ以上となっています。上であげた欧州ETSでの市場価格(一応削減コストを反映していると考えられます)のナンと3倍にあたる税金を補助金として投入するわけですね(ちなみに英国なんかでは排出削減は民間責任であり税金による二酸化炭素排出削減の補助は一切行わないとしています)。
クールビズやこういう役立たずのプロジェクトで「努力している」というアリバイ作りをして、最終的にはプーチンに多額の贈り物をしてホットエアを購入して政府のメンツを守るというおそろしいシナリオではないことを祈るばかりです。なんか私のまわりには「日本はすごく進んでいる」なんて激しく誤解して、議定書不参加の米国批判でストレス発散してる(ちょっと恥ずかしい)人がかなり多いんですが・・・
2004/12/20 月曜日
今日(12月19日)の朝日新聞をちらちら見ていると、「仏レギュラシオン理論論客に聞く」というタイトルでロベール・ボワイエのインタビューが載っていた。内容は別になんということもなかったが、その中でちょっと気になったやりとりがある。
朝日新聞編集委員:日本の郵政民営化論議をどうみますか。
ロベール・ボワイエ:フランス電力(EDF)の例を見よう。この国営企業はいっさい補助金を受けないのに、欧州でもっとも業績のよい企業だ。この民営化を主張する論者は、国営は非効率、の一点張り。日本の郵政論議にも同じ空気を感じる。国営の金融機関があって、なぜいけないのか、、、云々
いやはや、相変わらずフランス人のゴマカシ、おっとごめん、議論の巧みさにはおそれいる。EDFはキャッシュはもらっていないかもしれないがれっきとした欧州最大級の規制企業であり、EDFの市場を保護するという規制のコストという形で莫大な「補助金」を受けている。彼の論法は例えば東電は利益を出しているから日本の電力市場は問題ないというのと等しい。
ついでにフランスは自国が影響力をふるえるEU当局の指令など無視して自国のEDFの市場は保護しながらも他国の市場、あるいは他業界の市場にEDFが参入し支配することを当然のように支持してきた。一方、先立ってポルトガルが自国のポルトガル電力(EDP)にフランスのEDF同様の特権と認めようとした際にはEU当局は頑強に「NON」をつきつけている。まぁ、こんなとんでもなくクサイ例を出してよその国の郵政論議に論及するガクシャも良い度胸だが、まったく勉強不足でインタビューをやってのける「クオリティ・ペーパー」の編集委員にもおそれいる。もし知っていて言及していないだけならば知的不誠実だろう。
この編集委員、最後に
「ともかく米国流に歩調を合わせる。もしこんな空気の中で行われるとするなら、日本の郵政民営化論議もよほど慎重であっていい、とボワイエ氏は助言するのだ。この意見でさえ偏狭に響くとすれば議論全体がすでに「一色」に染まっているのかもしれない」
と締めくくっているが、民営化=米国流=ネオコン・米国一極=イラク戦争=悪ってな超単純単脳図式にわけのわからんボワイエじいさんを刺身のツマとしてはめこんだ、と見えなくもない。そうだとしたら、お主もワルよのう。
コメント (0)
TrackBack URI : http://www.plateaus.com/econ/blog/archives/129/trackback