2009/11/11 水曜日

日本の債務で再びガタガタ

政権交代後、民主党政権はいろいろ「見直し」で、ガタガタしているようですが、「見直し」は日本国内だけではなく、国外からの日本に対する目も同様です。

中国などの新興経済の陰に隠れて、ここ数年日本に対する関心は大きく薄れていたので、鳩山政権の誕生とともに「忘れられていた」日本へのスポットライトが回ってきた感じです。折も悪く、世界中の先進国で公債の増大に懸念が高まっていたところなので、日本の公債残高は格好のネタになっています。

めぼしいところでは、投資誌の「バロンズ」の9/26日号でJonathan R. Laingが「Is the Sun Setting on Japan(陽は沈みつつあるのか)」で日本の公債残高が財政破綻のシナリオに近づくとしたエコノミストの見解を取り上げています。

そして、10月中旬にはグリーンライト・キャピタルのDavid Einhornが先進国、特に日本での金利の急上昇の可能性について触れ、「過去になかったからといって、将来もないとも言い切れない」などと述べたところで、一気にさざ波が立ったという感があります(「Einhorn効果なんて言われてます」)。また、それを受けてFinancial Timesなどでも日本の公債残高の問題が何度も取り上げられることになりました。

実際、公債残高がGDPの200%に近づくという水準にもかかわらず、民主党政権の財政赤字や国債に関するメッセージはメチャクチャで見るに耐えないという気がします。

しかし、この手のハナシが出るといつも思い出すのが、5年ほど前に出たDavid Weinstein教授(コロンビア大学)とChristian Broda助教授(シカゴ大、執筆当時はニューヨーク連銀)の論文の「Happy News from the Dismal Science(PDFへのリンク)」です。私もこのブログで大分昔に取り上げたのですが、少しだけ引用すると(元記事はこちら)、

彼らの論文のベースの1つは、政府機関、準政府機関の間での債権債務、例えば日銀や他の公的機関が保有する国債などは公的機関全体の正味で見れば、債務と資産で打ち消し合うので実質的な債務とはならないというものです。この影響を取り除くと、日本の正味の政府債務はGDPの46%になり、これに公的機関が民間セクターに対してもつ不良債権を足して、日本の正味の政府債務はGDPの62%となるというのが彼らの計算です。

(数字は2004年当時のものです。今はもっと高いでしょうが、基本的なロジックは変わらないはずです。ちなみに当時の公債残高はGDPの160-170%くらいだったと思います)

この論文では、「最悪の事態でも、日本の公的債務は課税水準を平均的なEU諸国並みまで上げるだけで持続可能であるとしており、最も妥当な水準としては3%から9%の課税水準の上昇が必要」となっています。こういうことを考えると、ひょっとすると大幅増税を狙うどこぞの役所はこの騒ぎにほくそ笑んでいたりして、と思ったりします(あれだけ大騒ぎしていた「埋蔵金」の発掘も全然進んでいないようですし)。

2009/11/7 土曜日

人民元を何とかせんといかんですたい?

人民元を何とかせんといかんですたい」というような言説が米国でもワリと多く見られます。

「為替は自由経済の牙城」だから「ワシは介入せん」とおっしゃったおじいさまもいらっしゃいましたが、自国通貨をドルにペッグしたらあかんのでしょうか。よう分かりません。

もともと通貨自体は、金利、マネーストックなど、ファンダメンタルに係るパラメーターを各国当局が恣意的にいじってるんで、為替市場は単純に「自由市場」と呼べるようなシロモノではないですし、そうすることが内在的に正しいとも言えません。

政府・中央銀行を合わせて各国当局は、お金の価格(すなわち金利)、マネーストック、あるいは対外的な自国通貨の価値(すなわち為替)のいずれかにターゲットを設けることができますが、このうち1つを決めれば、あとの2つは基本的には市場で決められることになります(一時的には規制などで抑えることができるかもしれませんが)。

米国のような国内消費が主導的な国では、お金の価格(金利)の安定が重視されるのは当然のことです。したがって、米国は為替を口先以外でコントロールすることはできません。

逆に、外需が重要な中国では、対外的な自国通貨の価値(すなわち為替)の安定が重視されるのもまた当然のことです。米国と中国では効用関数が違うだけで、どちらが正しく、どちらが間違ってるというもんではないように思えます。

為替は調節機能なので、中国が為替を対ドルで固定すれば、調節は中国国内の生産性と物価の上昇という形で行われることになります。違いは、為替での調整は瞬時に起こるのに対して、生産性や物価での調整には時間がかかるということです。マッキンノンなんかも、今はどうか知りませんが、為替の大変動で中国がこけても誰も得はしないので、為替の変動を限定して長期的に調整した方が良いというようなことを昔言っていたような気がします(PDF)。わたしも賛成です。

ついでに、為替を固定すると、国内では規制によるもの以外は基本的に金融政策の手は縛られるので「中国(単独で)の出口政策」というのもよう分かりません。

2009/10/4 日曜日

ファーバー博士のこと

今週は結構きつかったので、休憩がてら、だらだら飲みながら昔の雑誌を見てると中々面白い記事がありました。タイミングは2007年初旬のバロンズのラウンドテーブルなんですが、ペラペラ読んでいて少し感心してしまいました。

2007年初旬といえば経済は絶頂の直前で、不安の声はそれなりにあったものの、その大方は軽い売文の類か、万年地球崩壊のルービニ先生の不均衡論のようなものでした。Fedは利上げをほのめかしていましたが、世間では何かあってもバーナンキが札を刷りまくって経済は軟着陸すると思っている向きが多くいました(実際には軟着陸どころか、この後も経済は1年以上も浮揚を続けて、約1年半後に大クラッシュしたのはご存知の通りです)。

この記事で断然に面白いのがマーク・ファーバーで、思わず読み込んでしまいました。以下に少しご紹介します。

ファーバー:現在の状況はとんでもない規模の負債バブルだ。中央銀行が信用引き締めするなどと思ってはダメだが、中央銀行が引き締めなくても、資産価格が崩壊すれば信用は収縮する。金融収縮のシグナルは、ゴールドマン・サックスの株価が下落する時だ。

ルブリン(司会):そんなことは永久に起こらないかもしれませんね。アビー(アビー・コーエン、ゴールドマンのストラテジスト)、どう思う?

コーエン:私が知ってる限りでは、今日も4.50ドルも上がってるわよ。

ファーバー:証券株が上がってる限り、まだ過剰流動性がある。しかし、他のところでは信用収縮の兆候がある。サブプライム・ローンは借りるのが難しくなってるし、スプレッドも広がっている。

(中略)

円のキャリートレードは、突然逆転する。レバレッジは収縮して、資金は円に逆流する。逆転が起これば、円は例えば米ドルなどに対して急上昇するだろう。したがって私のマクロ投資は、円に対する長期のコールだ。長期的に見れば、低利回りの通貨を借りて、高利回りの通貨に投資するのはアホな戦略だ。1年、いや2年、3年は上手くいくかもしれんが、突然恐ろしいほどの痛い目にあうだろう。

(中略)

それから、金、銀、農地をロングだ(注:当時金は600ドルあまり)。ロンドンやボストン、ニューヨークなんかの不動産はゴールドマン・サックス風の経済と骨がらみだ。そしてゴールドマンはダメだ。おっと、ゴールドマンは私のクライアントだから良いことを言わないとな・・・ つまり、言いたいのはこれらの都市の不動産価格は資産市場と連動してるってことだ。アルゼンチンやブラジルの農地が安い。

(中略)

それから、私らの商売もショート、つまりiシェアーズ・ダウジョーンズ・ブローカー・ディーラー・インデックスもショートだ。そのうちゴールドマン・サックスは最高のショートになる。

コーエン:一体いつになることかしらね。

ファーバー:あんたも持ってんだろ。売った方がいいぞ。金融セクターはヤバい。

いつも通り、ファーバー博士、かなり早いのが玉にキズですが、今読むと見事なものです。この時の記事は私も当時少しだけ紹介してたようなんですが、今読むと、一体この記事のどこを読んでたんだか、お恥ずかしいばかりです。

ファーバーは、今では想像もつきませんが、若い時はスイスのナショナル・スキー・チームの選手もしていたおっさんで、24才の時にチューリヒ大学で経済学の博士号をとっています(magna cum laudeだそーです)。私は彼のことを昔は「投資界の加藤一二三」と密かに呼んでいたんですが、やはりタダ者ではありませんな。

2009/9/3 木曜日

米国市場:(また)「正気」の兆し?

世界的に経済の底入れの兆しは明確になってきており、米国もデータはまずまずといったところですが、3月の底から直近の高値を記録した8月27日まで50%以上の上昇となっていた株価はここのところやや息切れとなっています。またここ数日間は良いニュースに対する市場の感度も明らかに落ちています。

ハイイールドのスプレッドも過去2週間ほどは再び拡大傾向にあり、VIXも29前後で7月上旬の水準に戻っています。市場はやや「正気」に戻りつつあるんでしょーか。

S&P 500が織り込んでいる成長水準を考えると、前提にもよって違いますが、3月の安値は今年の米国経済の成長率として大体マイナス3%程度の実質GDP成長率を織り込んでいた数字であると見られています(今年だけのことを考えれば概ね現実的な想定であったと言えます)。先週の高値水準は、これも前提によりますが、翌年の実質GDP成長率が概ね4%となる成長軌道を織り込んだ数字であると見られます。

米国経済の翌年の成長率に関する予想にはかなり幅がありますが、4%は予想レンジの上限にある数字で、現在のコンセンサスは2.0%というところです(これは大体現在の社債で織り込まれている水準です)。翌年の成長率を2%とする成長軌道を単純に株価に当てはめると、S&P500で850-880程度までの調整の可能性はあります。

ただし、今までも市場は「とうとう調整か」と思うと、上に抜けてきているので今回もこれで調整入りなのかどうか分かりません。良いデータへの感度が落ちてきているとはいえ、受注/在庫の比率は1.9倍近くと過去30年以上の期間で最高の水準にありますから、ISMなどの数字もまだまだ上向きです。

短期的にはS&P500が8月17日の980あたりを割り込んでくれば黄色信号と思われます。

2009/9/1 火曜日

上海で大騒ぎ

最近では、日経がダウの影響を受けるように、米市場が上海の風向きの影響を受けているかのような感がありますが、上海続落で米国は結構な騒ぎです。S&Pなど高値水準にあるので、上海の下落が調整入りのカタリストになるかもという向きも結構いるようです(個人的には米市場は高すぎると思っていますが、弱気のコールはまだ早いように思われます)。

上海は8月4日の直近の高値からすでに23%以上下げており、50日平均を割り込み、200日平均の線も視野に入ってきています。中国当局による過剰設備の処分や、不良債権に対する引当の増額の指示、そして貸出の減速など、引き締めに対する懸念が騒ぎに輪をかけています。

しかし、例えば米市場が今の状況で、「Fedが金融引き締めに動く」などという話があっても、ほとんどの連中は一笑に付すに違いありません。中国に関しても同様で、当局はその時点で必要な措置は取るでしょうが、まだ大きくブレーキを踏みこめるような状況にはないはずです。

どうも「中国」という名前が出るだけで、皆さん完全にアタマに血が上って大騒ぎするという傾向がまったく収まっていないように思われます。私が鈍いだけという可能性もありますが。