いくつかのホームページやブログで取り上げられていたようですが、バークシャー・ハザウェイのCEOで、大金持ちのウォーレン・バフェット氏が富裕層への課税強化を訴えるスピーチをヒラリー・クリントン上院議員のための資金調達集会で行って話題を集めていたようです。
大富豪で慈善活動にも熱心な著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、ニューヨーク市マンハッタン区で行われたヒラリー・クリントン上院議員のための資金調達集会で、大富豪に対する課税率が中産階級より低い現行の課税システムを強く批判した。
・・中略・・
ワシントン・ポストによると、バフェット氏は世界3位の高額所得者である自らを例に挙げ、特に節税対策を行っていないにもかかわらず、2006年の自分の課税所得(4,600万ドル以上)に対する課税率は17.7%だったが、自分の秘書の課税率は約30%に上ったと指摘。恵まれた人は所得の少ない人を支援するべきだと、70分間にわたって演説した。(US Frotn Lineより)
(ちなみに上の「世界3位の高額所得者」というのは記事の明らかな間違いで、バフェット氏は世界2位か3位の金持ち(純資産と言う面で)かもしれませんが、課税所得4,600万ドルでは「世界3位の高額所得者」でないのは明らかです)
おそらくバフェット氏の所得の大半はキャピタルゲインや配当(税率15%)であり、秘書氏の所得は大半がサラリーであると推定できますが、キャピタルゲイン課税の税率をどうみるかは、「大富豪に対する課税率と中産階級に対する課税率」の問題とはやや異なる気がします。おまけにキャピタルゲインや配当の源泉となる企業利益には35%の法人税が既に課されていますから、この2つを比較するのも??と言う気もします。
おまけに、CBOによると米国における2006年の連邦税(所得税を含むすべての連邦税)の実効税率は所得額の下位20%で5.6%、下位20-40%で12.1%、下位40-60%で15.7%、下位60-80%で19.8%、上位20%で26.3%、さらに上位10%では28.0%、上位5%で29.3%、上位1%で31.2%となっており、必ずしも「大富豪に対する課税率が中産階級より低い」とは言えないはずです。
私は投資家としてのバフェット氏の手腕を尊敬していますし、ゲイツ財団への寄付表明など、同氏の慈善活動にも敬意を持っています。また、このスピーチ自体で語っている内容も善意のものであると思っています。
しかし、人のフトコロの詮索をするようでちょっとイヤなのですが、ここで一番問題なのはバフェット氏の純資産約520億ドルに比較して、この課税所得4,600万ドルというのが「特に節税対策を行っていないにもかかわらず」あまりに低すぎるということではないでしょうか(ちなみにこの数字は上の記事の元ネタと思われるWashington Postでも書かれているのでおそらく本当なのでしょう)。
520億ドルの資産に所得4,600万ドルではリターンはわずか0.1%以下、日本の銀行に預けていてもこれくらいの利息はつきそうです。しかし同氏の一昨年時点での資産は440億ドルで1年間で80億ドル、18%ほど増えていますからそんなにリターンが低いわけはありません。
Washington Postの記事に対して同様の疑問を呈しているのがマンキュー先生で、バフェット氏の課税所得が(真実の所得に比較して)これほどまでに低い理由として、次のような可能性を挙げています。
1. 配当が最小限の株式を保有している
2. キャピタル・ゲインの実現を避けている
3. 免税の地方債を買っている
4. 値上がりした資産を寄付して、キャピタルゲインを実現した場合の課税を避けながら、現在の時価に基づいた税控除を受けている。
それで、マンキュー先生は以下のように締めくくっています。
バフェット氏が望んでいるように見える税率引き上げをしたところで、これらの租税回避戦略はあまり影響を受けないということに注意が必要だ。税率を大きく引き上げても、租税に精通したバフェット氏が、同氏の資産、あるいは同氏の本当の所得との比率で見て大した税金を払うことはないだろう。
税金はどこの国でも敏感な問題であり、選挙になると色んな話が常に吹き出すという見本のようなケースです。まぁ、バフェット氏が言いたかったのは、もっと税システムのコンセプト的なことであったと推察しますが、自分(と秘書)の例を挙げたのは少し判断ミスであったかもしれません。
日本の場合は今月の参院選はどうも年金一色という感じでしょうか。消えた年金の照合というのは、政策・制度と言うよりも基本的に政府の業務遂行能力に関することですから、ここで信頼が得られないというのはフツーだと完全にアウトという気もしますが(クレジットカード番号入れて注文しても商品届くかどうか分からん通販サイトって感じですね)。
