2007/6/15 金曜日

市場のボラティリティとオリエンタリズム

別にサイーディアンになりたいわけではないんですが、最近金融市場でとみに東洋起源の奇怪なおハナシを聞く機会が増えている様な気がします。基本的には中国のプレゼンスが増大していることが大きいと思うのですが。

例えば、中国の上海市場の急落をきっかけとした2月の株式市場動揺の時は、混乱の要因の1つとして多くあげられていたのが例の「円キャリー(日経風に言えば円借りなんでしょうか)」の巻き戻しというやつです。

非常にプレスティージが高く、いつもは超冷静で超理詰めのバイサイドの某プレーヤーの機関誌の例を挙げると、曰く

株式の最近の上昇を支えていたのは日本からの低コストの資金であった。グローバル市場の流動性を目に見えない足場のように支えていた「キャリー・トレード」の勢いが衰え始め、グローバル株式の下落の悪化の一因となった。

となっています。ははぁ。

皆さんが円キャリーの増大の目安として良く出すのが、CMEでの円のショートポジションや、日本のコール市場での外銀の円借残などですが、確かに2月以前でも急激な伸びであったとはいえ、せいぜい数兆とか10-20兆円程度の水準です。1000万歩譲っても、とうてい世界でバブルを起こすような規模の数字ではありません。「それは単に一例だ」って言うんですが(私もそうとは思いますが)、今まで明確な別の例を出してくれた人にはあまりお目にかかったことがありません。「目に見えない」のは「もともと大したことない」からじゃないかと思うのですが・・・

最近の債券の動揺でも中国のハナシが結構出たのですが、その時に良く聞いたのが「中国が外貨準備の分散を始めた」というものです。その「証拠」として良くあげられたのが「例えば、中国政府がブラックストーンに投資をしたことからも分かるように・・・」ってやつでした。天下のFTでも「分散する中国」なんてのをブラックストーンをダシにして書いてましたが、確かにこれも象徴的とはいえ、たった30億ドルのハナシです。

そりゃ中国の1兆数千億ドルのリザーブが全部動けば「それなり」のインパクトはあるんでしょうが、例えば、運用資産1兆ドル程度の、フィデリティやアメリカン・ファンズが何をしても債券や株式や世界経済の動揺の下手人にされることはないでしょう。それはそんなことしても連中に良いことはないし、だからするわけないからです。逆に言えば、中国共産党は「何をするか分からん」し「何かやってる(あるいはやる)に違いなくて」、「したがって絶対に影響ある」に違いないわけです。まぁ、だいぶ極端に脚色して書けばのハナシですが。

キャリーにしても、これはフォワード・バイアスを利用した古典的なトレードで、ユーロがボロボロの時は多くのトレーダーが数年間にもわたってユーロ・キャリーをして小銭を稼いでいました。キャリーは統計的に見ると相当リターンが高いですが、リスクもそれなりに大きいので、まっとうな(つまり投資規模の大きい)プレーヤーは、抜き身ではそんなにリスクの高い大きいポジションは取りません。

新聞なんかで見る「円を低利で目一杯借りて目一杯レバレッジを効かせて高利の国に投資」なんてあったとしても完全にトーシロかクレイジーな世界で、とても一般的とは思えません。大体ユーロ・キャリーがはやってた頃も市場では結構色々ありましたが「ユーロ・キャリーが世界のバブル(あるいは市場の動揺)の原因」なんて聞いた記憶がありません。

どうも皆さん「円」とか「元」とか「中国」という「東洋の神秘」がからんだとたんに、先ほどのバイサイドの会社の例でもそうなんですが、何か別のスイッチが入っちゃうような気がします。一緒に話して議論してると分かったような顔になるんですが、次の日になるとまた始まっちゃうんですよねぇ。これは「東洋は異質でなくてはならない」というテーゼから始まっているからではないかという気もします(実際異質なところも多いですが)。

まぁどこぞで良く聞く「XXX(中東に国のある民族の名前が入ります)の陰謀」系のトンでもないハナシよりはずっとマシですけど。

コメント/トラックバック:2 個 »


コメント

  1. ご無沙汰です。中国外準の話はこちらのマーケットでも聞かれますね。円キャリー(or円安)ネタは根強いです(笑)。今日の総裁会見でも円安質問目立ちました。調整が起きるたびに日銀のせいになるんですかね。まあ、日銀も「第二の柱」を掲げておりますので、戦犯になりやすい面がありますが。困ったものです。

    コメント by 本石町日記 — 2007/6/15 金曜日 @

  2. どうもどうも。日銀は総裁や首脳の発言内容をもう少し詳細にリリースで発表した方が良いような気がします。

    例えば、少し以前にも5月の10日頃の参院の金融財政委員会での福井総裁の発言に関して、FTは日銀がキャリーによるバブルを抑えるために利上げしようとしているような論調の記事を載せていました。

    チェックしようにも、日本の新聞のサイトの記事はせいぜい2行(笑)、日銀のリリースは木でハナをくくったような簡単なもので全く役に立たず(苦)。

    そして参院のサイトの質疑内容の掲載はあの遅さですから、発言の詳細をチェックできる頃には皆内容は忘れていて「何かBOJが変なこと言ってた」という記憶しか残っていないという情報不毛な世界なので・・・

    コメント by plateaux — 2007/6/15 金曜日 @

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