2006/10/7 土曜日

地球温暖化:米国をナメると後がマジでコワイぞっ、、、と

最近時々、地球温暖化を否定するような本だとか、記事だとかを目にすることがあります。大体ネタは米国の地球温暖化懐疑派のものなんですが、そういう記事や本と合わせて「米国ではXXXXが常識」(XXXXにはもちろん温暖化に関して懐疑的な言葉が入ります)とか「温暖化で騒いでいるのは一部のリベラル」なんて文句が入ってたりするのですが、米国の状況に対するこういう無知は極めてリスキーであると思われます。

もちろん米国は多様ですから、話す人によって全く違う世界が見えるわけで、上で挙げたような記事や本が「間違い」と言うのは困難なのですが、少なくともミスリーディングであるのは確かです。2009年以降(要するにブッシュ以降)、共和党政権が続いたとしても、何らかの形で明確な連邦レベルでの温暖化ガス排出規制のスキームが打ち出される可能性がかなりあると見ているビジネスマンは結構多く、その影響も少し考えておく必要があります(もちろん「玄人さん」達は考えていると思われますが)。

現在、米国が温暖化ガス規制を行っていない大きい理由には、米国人の規制嫌いの他には、「他の国が何もしていない(すなわちグローバルでの実効性が無い)のに何でワシらだけ損する必要があるのか」というのがあります。例えば、クリントンが京都議定書を批准のために議会に送ることができず、ケリーも京都議定書批准に反対と述べた大きい理由の1つには、米上院の「バード-ヘーゲル決議(92対0での圧倒的可決)」があります。ここでは、米国が行動する際には「発展途上国の意味のある参加が不可欠」とされており、途上国に排出枠が課されていない京都議定書では、共和党でなくても、もともと米国の参加は不可能に近かったと言えます。

逆に言うと、そのような米国において、米国内レベルであろうと連邦レベルの対策なり規制が取られた場合には、何らの対策も行っていない途上国、そして大排出国であるにもかかわらず、国内規制がほとんどなされていない日本のような先進国に対するプレッシャーは、決して小さいものではなかろうと想像できます。大体、アメリカの「都合の良い記憶回路」と「腕力」に関しては疑問の余地が無いわけで・・・、そこで米国の圧力と有権者の怒りという「リスク」に備えるため、「米国2009年対策説」の根拠を少し下に挙げておきます。

1. 世論:これだけ情報が氾濫しているにも関わらず、日本であまり知られていないのが、米国人の世論ではないでしょうか。例えば、タイム誌、ABCニュース、スタンフォード大学による2006年3月の世論調査によると、米国人の85%が地球温暖化は将来深刻な問題になると考えており、38%は既にその段階に達したと考えている、という結果が出ています。そして、米国人の4分の3近くが、地球温暖化の影響が既に現れているとしています。

これは、別に民主党支持者に限られているわけではなく、PIPAの2005年6月の調査では、民主党支持者80%、共和党支持者の63%が、米国の京都議定書参加に賛成しています。もちろん1つや2つの調査では多様な米国の世論を伺い知ることはできませんし、調査主体のバイアスと言う可能性もあります。というわけで、ここらへんの大規模な調査結果を広範に集めて分析したものとしては、ジョージタウン大学、Centre for European Policy Studies (CEPS)のThomas L. Brewerがまとめた論文や資料があるので、興味のある方は目を通された方が良いと思います。同氏のEESI Congressional Briefingの資料はここで入手できます(PDFです)。

2. 州レベルでの規制:連邦レベルでは、まだあまりアクションはありませんが、州レベルでは、北東部および中部大西洋岸諸州における発電所の二酸化炭素排出量に対するキャップ・アンド・トレード・プログラムであるRGGI(温室効果ガス地域イニシアティブ:現在7州が参加、今後参加見込みのマサチューセッツ州、ロード・アイランド州、メリーランド州だけでも排出枠は欧州のEU ETSの約10%の規模に匹敵します)や、カリフォルニアのシュワルツネッガーが署名した「地球温暖化防止法(The Global Warming Solutions Act)」(温室効果ガスの排出量を2010年までに2000年の水準まで、2020年までに1990年の水準まで、そして2050年までに1980年の水準に削減することを求める知事命令に署名)など、相当先進的な試みが進んでいます。また、オレゴン州、ニューメキシコ州、アリゾナ州、ノースカロライナ州などでも同様の動きの兆候が見られます。これらは上の世論とも合わせ連邦政府への大きな圧力となっています。

3. 宗教右派&大企業:福音派(Evangelical)からは既にブッシュに行動を求める声も上がっていますし、大企業も最終的に規制はやむなしと見て、後になって急激な規制になるより、最初から緩やかな規制を求めるところが多くなっています。それでなくても、欧州や、米国各州など、違う規制やルールでは金がかかって困るというのもありますし、温室効果ガス抑制の投資は結構高価ですから、長期的な見通しがないと困ると言うこともあります。反規制のロビーにお金を出している企業でも金儲けにはシビアですから「プランB」の用意くらいはしています(世論や欧州の状況を見ながら何の用意もしていなかったでは、株主にどんな目に合わされるか分かったもんじゃありません)。福音派は何でやという話もありますが、この方々は、もともと地球は人間が神様から預かったものと思っておられる上に、温暖化の影響が主に貧困国で大きいと言うことから「社会的正義」の問題と見る向きもあるようです。大企業と福音派に関しては情報を載せているサイトも多いですから、手間を惜しまなければある程度の情報は手に入る筈です。共和党政権にとっては有力基盤の1つなのでここらへんの動きは少し注意が必要です。企業に関しては下記のビンガマン-ドメニチの白書に対する回答もあります。

4. 議会:上院での、マケイン(共和党)-リーバーマン(民主党)提出の「気候管理および改革法案」は、温室効果ガス排出量が年間1万トンを上回る施設を対象とする強制的キャップ・アンド・トレードを明記しており、過去2回否決されていますが、票差は現在6票差となっています(両議員は新会期での再提出を明言しています)。また、法的拘束力は無いものの、ビンガマン(民主党)-ドメニチ(共和党)の連邦レベルの強制的排出枠の設定を求める決議が昨年53-44で可決されています。両者とも共和党・民主党の共同提案であり、またマケインはポスト・ブッシュの有力候補の1人である点にも注意が必要です。また、全般的に米上院における2酸化炭素規制をめぐる議論は共和党、民主党を問わず、相当水準の高いものです。中間選挙で共和党と民主党の差が縮小すれば、議論はより白熱すると思われます。また、ビンガマン-ドメニチは白書の一環として、2酸化炭素規制をめぐる公開質問書を出しており、これへの回答(大企業、NPOなど130団体が回答)は、米国の有力企業、団体の考えを知る上で非常に示唆に富んでいます(大半の企業が、一部のセクターではなく経済全体での規制が合理的と回答しています)。

で、上記などの点から、米国が2009年以降に一歩踏み出す大きな流れにあると言う見方(計算)をするビジネスマンが結構多いワケです。ただし、温暖化ガス排出規制に反対という現政権のゲートキーパーは、現在下院エネルギーおよび商業委員会の議長を務める、気候温暖化懐疑論者として知られるジョー・バートン下院議員(共和党)で、少なくとも下院のリーダーシップがどうなるかという点は大きな不確定要因ではあります。

ところでブッシュ政権も、温暖化ガス規制に反対はしていても、別に地球温暖化を否定しているわけではないことに注意が必要です。例えば、連邦気候変動イニシアティブは、2002年から2012年の10年間の期間に経済の温室効果ガス集約度を18%低下させることを目標としていますし(超ザルですが)、気候変動技術プログラム(CCTP)には30億ドル程度の予算(2007年度提案)が予定されています。これには米国、オーストラリア、日本、中国、韓国、インドの間での技術協力合意であるAP6(これまた実効性は非常に疑わしいですが)や、世界で最初の石炭ベースで排出量ゼロの発電を目指す(これは極めて意欲的です)10億ドルのFutureGenプロジェクトなどが含まれています。

一番最初に述べた「温暖化で騒いでいるのは一部のリベラル」というやつの他に、バード-ヘーゲル決議を含め「規制が進まないのはすべて共和党の謀略」という「左」側の意見も一部で紹介されたりしてるようですが、これも米国世論や、政治を見る上ではやはりミスリーディングであると思います。共和党政権であっても、進むものは進むというのは、現在の欧州の強制的排出権取引のベースとなっている排出アローワンスのコンセプトが生まれたのが、米国の硫黄酸性雨対策であり、排出アローワンスのコンセプトが大気浄化法に盛り込まれるに至ったのはレーガン-ブッシュ親父の共和党政権下であったということからも明らかなような気がします。

現在、日本の対策は、経団連の自主プログラムのようなもの以外では、大部分を海外のCDM/JIプロジェクト(あるいはグリーン投資スキームとか)に対する「札束シャワー」で解決ということになっていますが、「見てみぬ振り」の米国が、「清教徒的」な米国に変貌した際の影響も少しは考えといた方が良かろうと言う気がいたします。

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