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October 31, 2005

ギリシャ文字を使った経済学には気をつけろ

アンドリュー・ロー先生(Andrew Lo)っていうとFinancial Engineering業界(?)では有名な、MIT Laboratory for Financial Engineeringの教授ですが、この間HBRの記事を読んでいると、彼の面白いフレーズが引用されていました。

"In physics, it takes three laws to explain 99% of the data; in finance, it takes more than 99 laws to explain about 3%." (物理学では法則が3つもあればデータの99%の説明ができるが、ファイナンスでは法則が99あってもデータの3%を説明できない)

言ってる人が人だけに可笑しいですが、ちなみにこのフレーズを引用しているHBRの記事もケーザイガクの外の人が挙足取りの記事を面白おかしく書いているのではなく、筆者は元ベル研の研究者、元ゴールドマンのクオンツで現コロンビア大のインダストリアル・エンジニアリングおよびオペレーションズ・リサーチの教授のエマニュエル・ダーマン(Emanuel Derman)で、デリバティブの分野ではBlack-Derman-Toyモデルで有名な人です。

Harvard Business Review: ギリシャ文字を使ったケーザイガクには気をつけろ

ついでにダーマン先生はMy Life As A Quant: Reflections On Physics And Financeという、金融関連に興味があって、理系のハナシにもちょっとは興味のある人には面白い本を書いています。


October 29, 2005

米国がパスポートにRFID搭載

米国国務省はパスポートに対するRFID(Radio Frequency Identification)チップ装着に関する規制を発表したようです。RFIDは名前の通り遠くから電波でスキャンできるバーコードのようなものですが、バーコードと違い光学的にスキャンする必要のないこと、情報量がケタ違いに大きいことから次代のIDタグとして期待されているものです。

もちろん、EFFなどセキュリティやプライバシーに敏感な団体は即座に反対しています。無線でスキャンできるので、例えば他人がパスポートのRFIDの情報を読み取って米国人と分かれば爆弾を投げつけることも可能なのではないかとか、情報を盗み出して複製できるのではないかとか色々ありますが、基本的には米国人(欧州でもある程度そうですが)は基本的に合法的であろうと非合法的であろうと、政府であろうと小売業者であろうとテロリストであろうと、第3者が本人の断りも無く組織的に個人の情報を収集できるようなテクノロジーにはかなり強い拒否反応を持っていると言えます。ということで当初の計画に対するパブリック・コメントではコメントの何と98%が反対ということで計画は頓挫していました。

国務省はそれに懲りもせず、今回新たに決定を発表したわけですが、さすがにパブリック・コメントには留意して、パスポートの内側に印刷されたPINをリーダーで読み取ってそれをRFIDチップに送信しないとチップが応答しないようにすることや、アクティブRFIDではなくパッシブRFIDにすること、何らかの「アンチ・スキミング」素材を埋め込むことなど、基本的に閉じられているパスポートの情報を他人が遠方から読むことを不可能にする方策をいくつか採用しています。しかし、開いて光学的に読まねば作動しないのであれば、高密度で暗号化されたバーコードの方がはるかに安いのでは、という専門家もいるようですが・・・

米国ではウォルマートがメーカーに対して商品へのRFID装着を要求したりしていた関係もあって、RFIDは急速に普及するのではないかと観測していた向きもありましたが、前述した米国人のセキュリティやプライバシーに対する懸念もあり予想された程には普及していないので、チップ業界は今回の国務省の決定には大喜びのようです。ちなみに日本でも、外務省が来年3月までの「RFID」パスポート導入を目指しているようですが、これも基本的にはパスポートの内側に印刷されたコードを光学的に読み取り、それから生成された暗号鍵をRFIDに送信して、それに対しRFIDが応答して情報を返すという方式のようです。

個人的には、反対派の皆さんが言う程リスクが高いかどうか分かりませんが、この手の反テロに名を借りたイニシアティブに共通したこととして、リスクも含めてどうもコストベネフィットで算盤が合うようには全然思えないところがあります。国際的な資金移動に関する銀行に対する規制なんかもそうなんですけどね。誰か得してるんでしょうかねぇ・・・

余談ですが、商品等に付けるRFIDタグに関してですが、国内技術であるユビキタスIDを推進しておられる坂村センセーがセキュリティやプライバシーに関して話されていること等を見ると、どうも第三者の不法な使用を防ぐ話ばかりなようですが、先にも述べたように消費者が強烈に反発しているのは、そこらへんのストリートキッズがポテトチップの缶についてるRFIDチップを不正にハックする事なんかではなく、あくまで「(メーカーや小売業者などを含む)第3者が本人の承諾を得ずに個人の情報を組織的に収集できる技術」であり、ちょっとばかり感覚が甘すぎるような気がします。

この面では国際標準のEPC globalのセキュリティ・スタンスも大したことはないですが、まだここらへんには一応の目配りをしているように見えます。ここらへんの感覚が甘くても、中国、韓国くらいなら何とかなるのでしょうが、国際的にはやはり相当まずいのではないかと思われます。まぁ、エンジニアリングの人は、それはテクノロジーの問題ではなく運用の問題だと言いそうですけどね。

October 28, 2005

グリーンスパン退任までは利上げ継続の公算

次期連銀議長にバーナンキCEA委員長が指名されて、まわりのアメちゃんの株屋さんだとかファンマネの皆さんは相当というか天井が飛んじゃうんじゃないかというくらい大喜びしてました。

この皆さん方の本音をデフォルメして書くと、今の連銀の連中は常軌を逸したタカ派で、AGとかコーンなんてのはとんでもない(時代遅れの)フィリップス・カーバーやデマンド・サイダーで、連銀が住宅バブルや、経済成長率やら失業率なんかに注意を払ったり口をはさんだりするのは職権濫用の大間違いで、連銀は黙って商品価格や金融指標のハードデータだけに集中して、国内物価の安定だけ考えとけ、となります(まぁ、完全雇用は連銀の明示的な責務の1つなんで、職権濫用は定義上間違っていますが)。

特に最近ハリケーンが来ても、コアCPI、コアPCE、コアPPIのハードデータに大して動きがなくても、賃金上昇率が低下しても、おなじみの分かったような分からないような声明を出して利上げを続ける連銀には皆さんことにご立腹のようで、呪文のように「バーナンキ、バーナンキ」と唱えていたわけです。これはブッシュのバーナンキ指名直後の株式市場の反応にも良く現れていますね。

さて、そのような悪態にも関わらず、グリーンスパンは不測の事態が起こらない限り、最後の仕事として来年1月の退任の瞬間まで現在の利上げを継続する公算が高そうです。

ちょっと振り返ると、グリーンスパンは1987年8月に議長に就任しましたが、当時は議長交代前の連銀の金融引き締めが不完全で、グリーンスパンも荒れやすい議長交代直後にDiscount Rateの50bpの利上げを行っており、その直後の10月に株式市場の崩壊が起こっています。

まぁ、この市場崩壊の際の手腕でAGは市場の信頼を得たので結果オーライだったわけですが、この経験から言っても、AGは在職中に引き締めに一応のケリをつけようとするのではないかと思われます。とゆーわけで、連銀はあと3回程度、25bpづつ利上げをして、合計14回、350bpの利上げ後に議長交代という形にするのではないでしょうか。2回目、3回目はかなり抵抗が大きいとは思いますが。AGの代弁者でもあるコーン連銀理事も最近のスピーチで、

"Imbalances between demand and potential supply would thus now be slow to show through convincingly to inflation, but when they do, they may be costly to correct." (要するに需給の不均衡がインフレとなって現れるのには時間がかかるけど、インフレになってからの対処はすごく難しいから、早めに引き締めないとダメなのよんってこと)

と述べており、これもAGの意向と大して変わらないのではないでしょうか。

ところで、米国議会ではウォール街の株屋さんたちの「信任が非常に厚い」Jim Saxton共和党議員が委員長を務める合同経済委員会(Joint Economic Committee)が、用意良くバーナンキの指名と同時にインフレターゲティングを推す調査報告書をまたまた出しており(一体何回目でしょうか)、バーナンキ議長登場ともあいまって皆さんの期待は膨らむ一方なんですが、そんなに期待膨らましちゃっていいのかしらん・・・

October 25, 2005

ブッシュ、バーナンキを連銀議長に指名

ブッシュ大統領はバーナンキCEA委員長、元連銀理事を次期連銀議長に指名しました。米国株式市場もこれを好感し(ハリエット・マイヤーズ騒ぎの後なんでほっとしたのもあるかも)、ダウ平均はブッシュの声明の直後に117.7ポイント急上昇しています(企業の好決算もあり、最終的に169ポイント程度上がったようです)。

まだ上院の承認が必要ですが、ほぼ衆目の一致する候補者だったので問題は無いと思われます。以前にも書きましたが、バーナンキ先生とグリーンスパン議長の最大の相違点はおそらく具体的にはインフレターゲティングに対する姿勢の違い(バーナンキは長年にわたってインフレターゲティングの主唱者であり、グリーンスパンは一貫してインフレターゲティングに反対していました)、より広く言うと連銀の意思決定全般にわたる透明性に関する考え方にありますが、指名後のスピーチでは「グリーンスパンの金融政策、政策戦略との連続性を維持する事が第一優先順位」と答えています(まぁ、当たり前ですが・・・)。彼が独自色を出すのはある程度たってからになるでしょう。

バーナンキはハーバードの経済学部を"summa cum laude"で卒業しており(そう言えば先に最高裁長官に任命されたジョン・ロバーツ氏もハーバードの"summa cum laude"でしたね)、その後MITで博士号を取得しています。プリンストンの経済学部長を経て、2002年8月から2005年6月まで連銀理事、そしてCEA委員長に指名されています。金融政策のエキスパートであり、ブッシュ政権での経済関連のポジションでは久方ぶり(初めて??)の「重量級」の登場と言えます。

ブッシュはバーナンキをCEAにもってきて「ブッシュは彼ならコントロールできると見た(というか財政赤字に対して批判することはない)」というような見方などの政権との距離に関する不安や、アカデミックな世界以外での経験の少なさを懸念する声もあるようですが、連銀議長という仕事とグリーンスパンの後ということを考えると誰が指名されてもある程度の不安の声はおそらくやむを得ないでしょう。グリーンスパンも就任が決まった直後は散々いろいろ言われてましたしね。

各国でもインフレターゲティングを支持する向きは、「理論的支柱」の1人の最大の経済大国の連銀議長への就任を歓迎すると思われます。ただ、「インフレターゲティング派」で成功していると言われていたイングランド銀行でも、来年インフレターゲットを超える物価上昇が予想されるにもかかわらず、景気減速で「利下げ」を考慮しているなど、経済環境的には脆弱(かもしれない)景気、資産価格の高騰、原油価格高騰によるインフレ懸念などちょっと微妙な時期ですね(英国の経済サイクルは大体米国の8カ月-1年くらい先とか言われています)。

ところでプリンストンがらみでは、このバーナンキだけでなくちょっと思いつくだけでも、バートン・マルキール(Burton G. Malkiel)、アラン・ブラインダー(Alan S. Blinder)、クルーグマン(Paul Krugman)、アラン・クルーガー(Alan B. Krueger)、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)など、まぁ限りなく(しかも全然違う連中が)出てくること・・・

October 24, 2005

電子メール34年

今日も変なメールが多くて少しげんなりしていて思い出したのですが、10月は電子メールが生まれた月です。

異なるコンピュータ間で最初のE-mailが送られたのは1971年の10月とされています。送り主は、BBNのシニア・サイエンティストのRay Tomlinsonさんで、アカウントのあるホストのアドレスを表すのに"@"マークを使うのを考えだしたのも彼です。今や"@"マークはネット関連のシンボルマークみたいになっていますね。

彼が最初に使ったアドレスはtomlinson@bbn-tenexaってもので、bbnは彼の勤めていた会社、tenexaは彼のホストマシンの名前です。今おなじみの.comだとか、.co.jpとかいうアドレス方式ができるのははるかに後のことです。Ray TomlinsonさんはE-mailのコンセプト、最初の実装、その後の標準化の功績で2004年のIEEE Internet Awardを受賞しています。

ところで昔からInternetに関わっていた人にはBBN(Bolt, Beranek and Newman)っていう名前も懐かしんじゃないでしょうか。Internetの前身ともいえるARPANETの構築に大きく貢献した会社です。ARPANETは1969年に稼働していたので1971年までコンピュータ間の電子メールが無かったというのも意外な感じがしますが、新しいテクノロジーが出てくる時ってのはこんなものかもしれません(発電が発明されて、工場が電気で動くようになってからも、生産ラインの配置は長い間それまでの主要動力源であった水力ポンプに都合の良い配置になっていて、電力に都合の良い配置になるのには長い年月がかかったという話をドラッカーの本で読みましたが、このメールも新しいテクノロジーに合わせていろいろな事が変わるまで時間がかかるという良い例かもしれませんね)。

ちなみにBBNは1948年にMITの教授が創立した企業で、米国でのアカデミックと産業界の往来が昔からの根が深いものであることも分かります。BBNは今でも先端のテクノロジー会社としてやっていってます。

これまでの電子メール25周年とか30周年のときには、マスメディアなんかは最初の電子メールというのをドラマチックな出来事にしようとして「最初のメールは何についてでしたか」とか「最初のメールを送った日の夕食は何でしたか」なんていう質問をしていましたが、Tomlinsonさんは「1971年に何してたかとかメールで何書いたかなんてフツー覚えてないよねぇ」って感じで笑えました。最初の電子メールの内容はたぶん自分宛にテスト用で出した"QWERTYIOP"とか"TEST-1-2-3"とかで、最初に他人に出した電子メールの内容はおそらく電子メールが使えるようになったというお知らせと使用方法ではないかということですが、この無味乾燥ぶりもなんとなくインターネット時代の技術にはふさわしいような気がしたものです。

Ray Tomlinsonさんのページ
最初のE-mailに関するBBNのページ
"@"マークに関するBBNのページ

October 23, 2005

楽天つれづれ

ちょっと前にLiveDoorのフジ買収で大騒ぎと思ったら、今度は楽天がTBSだそうですね。TBSの経営陣サイドやらのどうしようもない対応はいまさらなんで、あまり驚きはないのですが、この手の買収話には何か気持ち悪いところもあります。

なんか気持ち悪い、ってのはAOLとタイムワーナーなんかもそうだったんですが、資本関係や所有権をテコにした、かなりドメインの異なる異種企業間の提携・統合(ごちゃまぜ)ってのがどうもすごく「オールド・モデル」にみえるとこです。

例えば米国のCATV会社のComcastはずっと以前から他社に先駆けて、各TV放送局の有力番組のビデオ・オン・デマンド(VOD)放送のライセンスを大量に獲得し(他社には自社よりも高い価格でないとライセンスさせないという条件で)、他CATV会社や通信事業者相手の戦いを有利に進めていますが、もしComcastがこれをやるためにTV局の株を買い占めて事業統合とか言ってたらどうだったんだろうとか、AppleはiTunesで音楽を売りさばいていますが、レコード会社がAppleを買収するとか、Appleがレコード会社の株を一部買って事業統合という話はどうなんだろうか、と思ってしまったわけです。可能だとしてもおそらく投資家はそっぽを向いていたのではないでしょうか。まぁ今回の話とはかなり違いますが。

テレビ番組から広告サイトに誘導したり、TBSコンテンツのブロードバンド配信や各種イベントのチケットをネット販売する──など「テレビとネットの組み合わせは、いいコンビネーションになる」そうなんですが、これってもともと買収やら「事業統合」が必要なことなんでしょうか?この程度の事をするために買収をテコにしてかなりドメインの異なる事業を所有権を通じて一緒にするというのがハイリスク・ローリターン(かどうかは分かりませんが)のすごく「古い話」に見えてしまうわけです。株価にしても「コングロマリット・ディスカウント」の可能性もあると思いますし。

これだけの話なら事業統合ほどの話ではなく、普通の業務提携や「戦略的同盟」レベルでやるべき話のように思えます。今のメディア業界のスピードを見ていると交渉に気の狂うような時間がかかるのかもしれませんけどね(TBSが番組ソフトを大量に保有していて、安値でのソフト買いという事なら分からなくもないですね。本当のところはここらへんが狙いかもしれません。TBS「自体」がどれだけのソフトを保有しているのかトーシロには分かりませんが)。

こういう形にしたのは「真剣さを示すため」だそうですが、ビジネスは常に真剣にやるもんですから、株買えば真剣ってのも良くわかりませんねぇ。

October 18, 2005

日本の公的債務は大した事ない(かも??)

日本の公的債務はGDPの160%とか、770兆とか780兆とか、まぁとんでもない額になっています。底が抜けるととんでもない事になるとゆーので、誰の背中も凍り付き何も言えなくなる額ではあります。財務省はバランスシートの試案を出していますが、公的な資産などは実際には売れないものが多いので、実際の債務超過額は発表されている241兆ってなもんではないんでしょうね。

で、対策は第1に歳出削減、第2、第3が無くて、第4に増税、第5、第6がなくて、第7にインフレなんて話なんですが、日本の国民はこの数字にあまりビビって拙速になる必要はなく、理性的に自分たちに降りかかる負担を考慮しながら債務圧縮のオプションをゆっくり考えるくらいの余裕はあるという論文を最近ちょっと見つけました。財務省の脅しにあまりに敏感に反応する必要はひょっとしたらないかも?

この論文はコロンビア大学経済学部の副学部長であるDavid Weinstein教授と、論文執筆当時はニューヨーク連銀のエコノミストで現在はシカゴ大学経済学部のChristian Broda助教授によるもので、昨年9月のもので少し古いのですが、彼らの結論によると日本の公的債務は、今後日本がどの程度の公的支出を行うか有権者がまだ決定する余地のあるものであるとしています。

まだざっと読み飛ばしただけなので、不正確かも分かりませんが、彼らの論文のベースの1つは、政府機関、準政府機関の間での債権債務、例えば日銀や他の公的機関が保有する国債などは公的機関全体の正味で見れば、債務と資産で打ち消し合うので実質的な債務とはならないというものです。この影響を取り除くと、日本の正味の政府債務はGDPの46%になり、これに公的機関が民間セクターに対してもつ不良債権を足して、日本の正味の政府債務はGDPの62%となるというのが彼らの計算です。これでも結構高いんですが、OECDの平均を少し下回る程度になります。

彼らは、いろいろなケースで公的債務を持続可能とするための課税水準を推測していますが、最悪の事態でも、日本の公的債務は課税水準を平均的なEU諸国並みまで上げるだけで持続可能であるとしており、最も妥当な水準としては3%から9%の課税水準の上昇が必要であろうとしています。これでも相当きついとは言えますが、彼らの計算が正しいとすると、巷で言われている破滅的なシナリオには根拠がなく、財政崩壊の可能性は低いということになります。

余談ですが、経済学はろくな事を予想しないので「Dismal Science (陰気な学問)」と言われているのですが、この論文のタイトルは"Happy News from the Dismal Science"と「陰気な学問からの良いニュース」というタイトルとなっています。

ちなみに昨年のEconomistでも紹介されていたものです。

論文の全文は下のリンクからダウンロードできます。

Happy News from the Dismal Science

追記:コメントして頂いた方から、こちらのサイトにこの論文の要約が出ているとの情報を頂きました。上の駄文よりもはるかにきちんと要約されているので一読をお勧めします。あと、翻訳も出ているようです(驚きました)。訳書の情報も上記リンク先にあります。

October 16, 2005

百貨店大手が増益・・・

全般的に企業決算は昨今明るくなっているようなんですが、まだ「日本経済の二重構造」(つまり、国際競争にさらされて強力となった製造業を中心とする輸出産業と、規制などで生産性の低い国内産業の二重構造)はまだ温存されたままです。政治家のレトリックとは裏腹に「規制緩和」といってもほとんど進んでいないのが現状ではないでしょうか。

中間決算で百貨店大手3社(三越を除く)が増益決算だそうで、これはこれで目出たいんですが、最新四半期の営業利益率をざっと見てみるとざっと以下のようになります(Yahoo! Finaceより、連結)。

大丸:3.1%
高島屋:2.9%
三越:1.7%

これは、全体的に低収益の国内産業なのであまり目立ちませんが、例えば、同じく「百貨店は絶滅する」と長らく言われている米国の同業者の最新の四半期の営業利益率をちょっと見ていると、下のようになります(Dow Jonesより)。

フェデレーテッド・デパートメント:8.0%
J.C.ペニー:4.6%
サックス:3.4%

業績不振で事業売却の激しい圧力を受けている高級百貨店サックスでさえ、日本の大手百貨店を凌いでいます。まぁ、会計基準も少し異なりますし、同じ百貨店といっても業態的にはかなり異なりますので直接的な比較は不可能ですが、同じような国内産業でも相当収益力(そして収益に対する市場の圧力)が異なっていることが分かります。ついでに英国のマークス・アンド・スペンサーの営業利益率は大体8%前後です。

ちなみに、格差は百貨店だけではないです。大手チェーンを見てみても、最新の四半期の営業利益率では、

イオン(日本):3.2%
ウォルマート(米):6.0%
ターゲット(米):7.2%
テスコ(英):5.6%

ということになっています。こういう数字には常に「市場構造が違う」とか「業態が違う」という答えが用意されているのですが、「儲からない市場構造が日本ではなぜ温存されるのか」という疑問には触れられないことが多いのではないでしょうか。

ちなみに、私が実際に見たり聞いたりした中では、上で書いた日本の小売企業では大丸に最も「経営の意思」を感じました。管理部門もスリムですし、自社できちんと「マーチャンダイズ」しようとしている意思を感じました。当たり前のように聞こえますが、あんまりないんですよねぇ。

October 13, 2005

日銀量的緩和解除は2006年度にかけて?

日銀の福井総裁が量的緩和解除の時期に関して「2006年度にかけて可能性が高まる」と述べたそうです。慎重に観測気球を上げながら現在の政策フレームワークからの出口をはかっているようです。

先物市場も、来年の10月までにオーバーナイト金利が大体30-35ベーシスポイントになると織り込んでおり、用意は着々という感じもちょっとだけありますが、量的緩和の解除は日銀による事実上の国債引受の額の低下となる可能性が高いですから、政治家(とモルヒネ中毒者のみなさん)がどれだけやかましくなるかという点が少し不透明要因といえます。

量的緩和の主なメリットは日本の金融システムに対する信任のメルトダウンを防ぐという意味合いが最も大きかったと個人的には考えていますので、金融システム不安も一段落した今、あまり拙速にする必要はないとは思いますが、出口に着実に向かう時期に来ていると思います。まぁ、このままある程度の原油高が続けばCPIには強力な下支えになりますから、「表向き」のリクツもつけやすくなってますしね。

October 12, 2005

阪神上場??

ちょっと古いニュースですが、どうも村上ファンドが阪神電鉄の株を買い集めて、阪神タイガースの上場を勧めているようですね。驚きました。阪神株に球団価値が正当に織り込まれていないから(本当にそうなのかどうか分かりませんが)、上場して球団の価値を100%実現して株主に還元せよということでしょうか。

村上ファンドのことですから、色々問題のある親子上場ではなく、阪神電鉄の保有比率は相当引き下げ、IPOあるいは阪神球団の株式を既存の株主に割り当てるスピンオフ形式にすることを考えておられるんじゃないかと思いますが(法律には疎いので会社分割法上どういう課税になるのか分かりませんが)、面白い話だと思います(そんなに高値が付く程キャッシュフローの生み出される事業なのかどうか良く分かりませんが)。

スピンオフは米国などではよく使われている手法で、極端なところでは昔「ただの電話会社」だったAT&Tが、社内での先端技術開発の中核であったルーセントテクノロジーズをスピンオフし、当初10ドル未満だったルーセント株はその後バブルの最高時には84ドルまでつけて、AT&Tの技術の価値を100%(以上)実現し、「ただの電話株」のAT&Tの株主を大喜びさせたことがありました(その後バブル崩壊で1ドルを切る事態になるのですが)。阪神も「ただの電車株」ですが、「阪神タイガース」の人気の価値を100%実現するには良いアイデアだと思います。

阪神球団の上場に関しては反対の声も多いようですが、もし上場すれば株主、経営者からすれば球団の高成績による人気上昇が最も利益にかなう事となるでしょうから、球団の強化、人気を第一義に真剣に考えるでしょうし、資金面での事とも合わせ、球団にとってもそれほど悪い話じゃないような気もします。最近でこそ結構強いですが、もともと阪神電鉄は「阪神電車にそこそこ人が乗ってくれれば良い」くらいの経営態度だったと思いますし(わーごめん)。

October 11, 2005

ノーベル経済学賞はロバート・オーマンとトーマス・シェリング

今年のノーベル経済学賞は「協力(Co-operation)と対立(Conflict)の理論的な理解に対する貢献で」ゲーム理論のロバート・オーマン(Robert Aumann)とトーマス・シェリング(Thomas Schelling)に決定したようです

トーマス・シェリングは1960年の「Strategy of Conflict」で自分自身のオプションを限定することにより、相手方にとってこちらがどう対応するかという想定がしやすくなり、相互の協調的な行動が達成しやすくなることを示しています。まぁ「なーんだ」と思われるかもしれませんが、それ以前には政治的・軍事的戦略などでも相手側がこちらの取るオプションをどう受け取るかということなど体系的に考えずにアクションを取っていたワケですから、こういう類いの研究が無ければひょっとすると冷戦なんかも恐ろしい結果になっていたかもしれませんね。

ロバート・オーマンは対立と協調に関する多くの問題を定式化した大家で、ベイジアン・ゲームでのCorrelated Equilibriumの定義や、それより少し以前には協調型ゲームの解のコンセプトや、プレーヤー数無限のゲーム、無限に繰り返されるゲームの解の初期的な記述をしています。

ちなみに繰り返しゲームに関しては、当事者間交渉や多国間貿易交渉の有益さを示しているとも言われており、受賞理由の1つでもあるようです。つまり、一回しか顔を合わさないようなゲームでは参加者は最大限に合理的な(すなわち自分の取り分を最大化する)戦略をとりますが、無限に顔を合わせざるを得ない状況では、協調的行動を取るようになるということを定式化したわけです。

ゲーム理論関連では、これまでにも1994年のジョン・ナッシュ、J.C.ハーサニ、R.ゼルテン、1996年のウィリアム・ヴィックリーとジェイムズ・マーリースなどがノーベル賞を受賞していますが、両氏はそれに続く受賞となります。

なお、ロバート・オーマンには有名な教科書「Lectures on Game Theory 」(訳書:「ゲーム論の基礎」)があります。

October 10, 2005

FRB次期議長のウワサ

ブッシュ大統領が「お仲間」のハリエット・マイヤーズを最高裁判事に指名したことから、「ブッシュは連銀議長にもお仲間を指名するんじゃないか」という恐れがささやかれており、NYTなどはジョン・スノーの名前まで出していますが(まさかね、、、いくらなんでも)、最近どうもメールやいろんなところで、そこはかとなく有力候補かもしれないというウワサを聞くのがドナルド・コーン(Donald L. Kohn)連銀理事です。まぁ、この件では根も葉もない(かどうかも判別不能の)噂が良く乱れ飛んでいるので、そのうちの1つかもしれませんが、コーンならば良いと思っている人が結構多いことを表しているような気もします。

もともと、ベン・バーナンキ、マーチン・フェルドスタイン、グレン・ハバードあたりが有力と言われており、ドナルド・コーンは大体4番手か5番手と言われていますが、Bloombergにもコーンの話が載っていたりして(誰が議長になってもコーンが大きい影響を及ぼすだろう、という内容でですが)、偶然なのかもしれませんが、何かウワサのもとがあるのかもしれません。

コーンは長年にわたって(1987年以来)グリーンスパンの右腕中の右腕であり、また同じく長年にわたってFOMCの会議で議論のベースとなる通称"Blue Book"の作成チームのリーダーをしていたこともあり、グリーンスパンのスピーチも書いてるんじゃないかと言われている程の人物です。2人の二人三脚ぶりから今までの連銀の金融政策を「グリーンスパン=コーンの政策」と呼ぶ人も結構います。という意味では、グリーンスパンなき後、最も現在の政策の継続性を保証できる人物とも言えます。

連銀スタッフの間でも信任が高いようで、1996年から2002年まで連銀理事を務めたローレンス・メイヤー(Laurence Meyer)がFRBの内側を書いた「A Term at the Fed: An Insider's View」でも、コーンのことを「常に物静かで思慮深く、FOMCのメンバーが最も頻繁に指針を求めて頼るスタッフ」と書いています。

はっきりと共和党系のグリーンスパンなどと異なりキャリアを通じて政治家とはほとんど関わらず、政治的には完全に中立と見られているためもあってブッシュの指名を受ける可能性は低いと言われていますが、グリーンスパンがブッシュにコーン氏を推しているというような(これも出所の定かではない)噂も飛んでいます。

コーン氏が中央銀行家として、最有力候補のバーナンキと最も異なる点(そして当然のことながらグリーンスパンと最も近い点)は、インフレターゲティングに極めて懐疑的(というよりあからさまに反対)な点で、インフレターゲティングに対する彼の見解を読むと、議論の展開などからも彼が実際極めてシャープな人物であろうことが推察できます。

さて、次期連銀議長候補の中では、バーナンキも一応保守派ですが、ブッシュが好きな(とメディアは信じている)根っから「保守的な価値を信じている」人物かどうかは良くわかりません。フェルドスタインはお墨付きの本流保守派経済学者の大物ですがレーガン時代に大統領経済諮問委員会委員長を務めているときに、財政赤字をこっぴどく非難して共和党から非常に深い恨みを買った「前科」者でもあります。同じく財政赤字を垂れ流しているブッシュとしては避けたいかもしれません。

グレン・ハバードに関しては、元経済諮問委員会委員長で大統領にも近いという点が挙げられます。ブッシュが最高裁判事にジョン・ロバーツ氏を指名したときには、スマートさと「健全で保守的な私生活」と言う共通点を上げて次期連銀議長にはブッシュはハバードを指名するんじゃないかという予測も結構飛んでいました。

一応、大方の見方は依然としてバーナンキ有利、そしてフェルドスタイン、ハバードと続いているようですが、個人的にはドナルド・コーンは米国経済にとって良い選択なのではないかという気もします。

そう言えば、カリフォルア大バークリー校の経済学教授であるブラッド・デロングのブログに昔、面白い記事がのっていました。

アドメトス:ドン・コーンとは誰か?
グラウコン:正当な世界であれば、アラン・グリーンスパンの後継者になり得る人物だ。
アドメトス:では、我々の生きる不当な世界では、誰がアラン・グリーンスパンの後継者になるのか?
グラウコン:そうだな、世界銀行のジム・ウォルフェンソンの後継者がポール・ウォルフォウィッツである世界では、アラン・グリーンスパンの後継者は明らかに一人しかいない。ドナルド・ラムズフェルドだ。

ところで、文中で紹介したローレンス・メイヤーの本は、連銀での政策決定の内幕を一理事の立場から描いたもので、連銀の政策意思決定に興味のある人には面白い本だと思います。


Nestleがフェア・トレード

FTの記事によると、とうとうネスレが「フェア・トレード」だそうです

こんなこと書くと間違いなく大きな非難を浴びるのは分かってるんですが(それで、ケーザイ関連の人もほとんど口をつぐんでいますが)、「フェア・トレード」にからむ話や、グローバル企業による途上国における現地従業員の待遇改善などには、(一部の本当に許しがたい例を除いて)少し疑念を持たざるを得ません。

フェア・トレードに関しては、単純に市場価格以上の値段を生産者に支払うということですから、日本での米農家保護のグローバル版と考えれば分かりやすいのではないでしょうか。支払うのが納税者か消費者かという差はありますが。

別に米国の食品メジャーの回し者じゃないんですが、市場価格以上の値がつくと生産量の増加(および需要の減退)を招きますから、フェアトレードが普及していない現在はともかく、フェアトレードが普及すると長期的には不可避的な価格低下を招き、フェアトレード自体が自らの目的を破壊しかねません。

グローバル企業による「搾取」に関しても、私自身途上国の多くの国々で仕事をしたことがあるのですが、確かにそのような国のグローバル企業の工場等での従業員の待遇は米国、欧州、日本等と比較すると「悲惨」に見えますが、彼らの生活水準はその国における他の人と比較すると非常に高いという場合がほとんどです(私の経験した範囲では例外なくそうでした)。ゴミ山で日々の糧をあさっていたり、子供を売り飛ばしたりというのがまったく珍しくない国も結構ありましたが、そういう国でグローバル企業に「搾取」されている人は多くの場合、定期的な現金収入の保証された、しかも仕事のトレーニングを受けられる、現地では非常に恵まれた人々です。

「だからと言って非常に低い賃金でこき使うのは許せない」というのも気持ち的には分かりますが、現実面では間違っています。低い賃金であるから企業が進出し雇用が生まれるのであって、インフラが貧弱で生産性の極めて低いこれらの国では、高い賃金ではそもそも雇用自体成り立ちません。賃金を人為的に上げさせればそれらの国の労働力に対する需要は減退し、「搾取」されていた労働者たちは職場を失い、ゴミ山をあさる人々や子供を売り払う人々の仲間に入らざるを得なくなるでしょう。

ここ数十年をみても、貧困率が劇的に低下し、生活水準が上昇し、インフラストラクチャーが整備された国々は、東南アジア、そして中国など、先進国では非難の的となっているグローバル企業が山のように進出して現地の労働者を「搾取」しまくった国々であることを見る必要があると思うのですが・・・

(現地の法律が甘いことを良いことに、有害物質を垂れ流すとかいう論外な企業はもちろん上の話とは全く別の次元の話ですけどね)

October 02, 2005

米国の双子の赤字

国際経済メールマガジン9/30配信分

現時点で、世界経済で一番大きい問題は何かとケーザイ関連の人に尋ねると、米国の双子の赤字ってのは、おそらくベスト3には入るんじゃないかと思いますが、最近の米国のトレンド(?)でこれもケーザイというよりはすごく政治的な話題になっています。つまりブッシュがキライかどうかで、そうそうたる専門家の見方もまさに180度違うというワケで、ケーザイガクの人ってやっぱりいい加減?

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□ 米国の大赤字
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赤字といってもいろいろありますが、米国の赤字で現在まず大問題と言われているのは経常赤字です。これはある国が輸出するモノやサービスと輸入するモノやサービスの差ですが、赤字ってことは単純な見方をすれば、輸出して稼ぐ以上に輸入して使ってるってことになります。米国の巨大な経常赤字はここ数十年続いているんで別に新しい話でもなんでもないんですが、最近騒がれてるのは、今年第2四半期の時点で過去12ヶ月の赤字が約7500億ドルと、その巨大さがますます半端じゃなくなってきているからです。まぁ、80兆円くらいになりますが、韓国の国内総生産や日本の国家予算くらいになりますねぇ。

で、これは貿易において米国の製品・サービスに対する需要(つまりドルへの需要)より米国以外の国の製品・サービスに対する需要(つまりEUやら円やらへの需要)が高いってことですから、極めて単純にいうとドルは下落し、他の通貨は上昇するはずということになります。米国の経常赤字の規模は並ではないんで本当であればそのうちにドルの大暴落が起こって、ドルを基軸通貨としている国際経済は大混乱、米国人もドルの価値が下がって今までみたいに安価な外国製品を買って豊かな生活というワケにいかなくなり、大変なビンボー生活に・・・・ というのが「大問題」の中身なんですが、みんなが一致しているのは今の状態は無限に持続可能ではない、という点だけで問題の切迫度や、原因(したがって対処方法)に関しては、最初に書いたように政治的な色によって大分、というよりは全く変わってきます。

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□ 何でもブッシュが悪い
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さて、日本で最もよく紹介されているのが、クルーグマン御大なんかでおなじみの「ブッシュ政権主犯、アジア人共犯説」です。ちょっと単純な式をマクロケーザイの教科書から出すと、

実物投資=民間貯蓄-政府財政赤字+経常赤字

という風になるのですが(何でこうなるかは教科書でも見てちょ)、ここで実物投資(つまり工場建てたりってやつね)をある程度一定と仮定すると、経常赤字は民間の貯蓄と政府の財政赤字(つまり政府の借金)で決まるように見えます(この「見える」ってとこが重要です)。上の式で財政赤字を増やして、民間貯蓄と実物投資が余り変わらないと仮定すると経常赤字が増えるでしょ。それでこの財政赤字と経常赤字の関係をもってこの2つを「双子の赤字」というわけです。

そこで、現政権の経済政策(なんてもんがあるとして)に批判的なリベラル系学者の主張は極端にデフォルメすると、「ブッシュのアホが政府の借金垂れ流してテロ対策なんかにお金ばらまいているおかげで、経常赤字が増えて米国人は大変なリスクに直面している」となります。

政府は国債を発行して借金するわけですが、普通だとこんだけ借金してる政府の国債の買い手はなかなか無いですから、国債売るためには金利を上げなくてはならず、金利が上がると投資が抑制され景気は後退、低金利での借金をベースにした住宅バブルも破裂・・・となるので、借金には限界があるはずですが、実際にはそうはならず、ブッシュは際限なく借金をしています。ここで「ブッシュの共犯者」が登場します。

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□ 何でもブッシュが悪い(アジアの黄色い人たちもちょっとね)
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つまり、対ドルで自国の通貨の為替レートが上昇して、対米輸出に悪影響が出るのを嫌がっているアジアの政府(今は主に中国が槍玉に上がってます)が米国の国債買いという形でドルを買い支えているおかげで、ブッシュも安心して金利上昇の心配なしに借金に励めるというわけです。

もちろん為替レートを操作して輸出を高めるというのは市場経済からいうと汚い手なんで、この主張の便利なところは、経常赤字も住宅バブルが続くことも米国の問題は全部アホのブッシュと汚いアジア人の責任にできることです。

ちなみに上の式を見るとわかりますが、このリクツでいくと、民間貯蓄の低下も経常赤字増大の原因になるわけですから、この主張の最後には「米国人が貯金せずにお金を使いすぎてるのも悪いんだけど」という「良心的」な自己批判も入ることがあります。また、米国外でとにかく米国が気に入らん人にとってはこの最後の点が最重要になります。つまり「アホの米国人が稼ぐ以上に使いまくっているせいで、世界経済は大変なリスクに直面している」というわけです。

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□ 米国は全然悪くない?
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もちろん物事には常に別の面があり、これはケーザイでも同じことです。現政権側、あるいはブッシュがそんなにキライじゃない学者が見る世界は全く異なっています。代表者は次期FRB議長の呼び声も高いバーナンキ御大です。

経常赤字は裏を返すと資本収支の黒字(外国からの資本流入つまり外国人のドル建て資産の増加)なんですが(厳密なとこはキョーカ書でも見てください)、それで上の式は、

実物投資=民間貯蓄-政府財政赤字+経常赤字
    =民間貯蓄-政府財政赤字+外国人の資本流入

となります。ここでバーナンキ御大の説明によると、経常赤字の最大の原因は米国人の過剰消費でもアホのブッシュの財政赤字でもなく、外国人の資本の米国への過剰流入ということになります。つまり、米国外では、特にアジアでは過剰貯蓄であり、その余り余ったお金を外国人が成長率が高く資本リターンの高い米国で運用しようとドル建て資産を増加させているのが米国の経常赤字として現れているという主張です。

確かに、米国企業の資本収益性、成長率など非常に高く、それが外国人の資金を米国に引き寄せているのも否定はできません。これまた優秀な先生のマンキュー御大なんかも「移民が米国を目指すのと同様、外国人の資金も米国を目指している」となります。

さて、それではここでアホのブッシュが正しいことに目覚めて財政赤字を縮小するとどうなるでしょう。上の場合と同様に実物投資が大体一定と仮定すると、外国人の資本流入はそのまま続くワケですから、財政赤字が減った分は民間貯蓄がそれに見合った分減らなくてはなりません。民間貯蓄が減るためには金利が下がる必要があります。というワケでバーナンキ御大の説をとると、ブッシュが財政赤字を減らしても経常赤字はそのままで、しかも民間貯蓄は減少し、つまり米国人の消費がますます増え、おまけに金利が下がって余計に住宅バブルが悪化するということになります。

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□ ちょっと考えてみよう
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説明としては、クルーグマンなんかの言っているのとバーナンキの言っているのは全く逆になるんですが、個人的にはこれはバーナンキの方に少しだけ説得力があると思います(実態は両者のどっか真ん中でしょうが。普通はケーザイの式で変数を恣意的に固定して自分の都合の良い結果を導くのは「Single Variable Economics」ってバカにされる典型です)。例えば、米国と米国以外では分かりにくいですが、分かりやすくするために、日本の東京と東京以外を考えてみましょう。思考実験として、都道府県が全て国だとしてみましょう。

東京はおそらく、米国人も目をむく経常赤字国であるのは間違いありません。トヨタの工場もないし、食糧もないし、エネルギーも無く全て輸入ですからね。あるのは企業の本社ですが、これは米国の多国籍企業の本社が米国にあるのと同じです。それで、石原慎太郎が嫌いな向きは、「石原が軍隊ごっこするために都財政を顧みずに赤字を垂れ流すせいだ」と言うでしょうし、東京キライの地方の人たちは、「東京の連中は稼ぐ以上に、消費し過ぎてるからこんなことになる」と言うんじゃないかしらん。しかし、これはあまりピンとこないんではないでしょうか?

で、バーナンキ流に言えば「地方は成長率が低く、資金を運用する機会があまりないために、地方の資金が成長率が高く収益性の高い東京に流入してくるのが東京の経常赤字の原因だ」となります。分かりやすいでしょ。みんな認めたくはないので誰も言いませんが、米国と米国外の関係はこれに近い面が少し(あくまで少しですが)あります。国際経済においては米国が群を抜く都会で、あとは田舎ってこと。いつまでそうなのかは分かりませんけどね。

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□ グリーンスパンが悪い
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ただ、バーナンキの説明でひとつ問題があるのは「米国外の過剰貯蓄」です。世界経済はかなり高い成長を示していますから、これは「過剰貯蓄」と矛盾します。つまり、米国に流入しているのは「貯金してためたお金」ではなく、「金融がゆるくなって(つまり低金利で)、みんなが借金した資金が米国に流入してるんじゃないか」という疑いが濃厚です。

それで、世界中で金融が緩くなっているのは、もとを正せば米国の連銀議長のグリーンスパンが米国経済の減速を食い止めようと長期間に渡って低金利政策をしたことに大きな原因があります。グリーンスパンのかつての部下で、次期連銀議長の声もあるバーナンキには「米国の低金利政策が原因で世界中で金余りとなり、その資金が米国に流入して経常赤字になっている」とは言えなかったんでしょうねぇ・・・

  

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