国際経済メールマガジン9/30配信分
現時点で、世界経済で一番大きい問題は何かとケーザイ関連の人に尋ねると、米国の双子の赤字ってのは、おそらくベスト3には入るんじゃないかと思いますが、最近の米国のトレンド(?)でこれもケーザイというよりはすごく政治的な話題になっています。つまりブッシュがキライかどうかで、そうそうたる専門家の見方もまさに180度違うというワケで、ケーザイガクの人ってやっぱりいい加減?
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□ 米国の大赤字
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赤字といってもいろいろありますが、米国の赤字で現在まず大問題と言われているのは経常赤字です。これはある国が輸出するモノやサービスと輸入するモノやサービスの差ですが、赤字ってことは単純な見方をすれば、輸出して稼ぐ以上に輸入して使ってるってことになります。米国の巨大な経常赤字はここ数十年続いているんで別に新しい話でもなんでもないんですが、最近騒がれてるのは、今年第2四半期の時点で過去12ヶ月の赤字が約7500億ドルと、その巨大さがますます半端じゃなくなってきているからです。まぁ、80兆円くらいになりますが、韓国の国内総生産や日本の国家予算くらいになりますねぇ。
で、これは貿易において米国の製品・サービスに対する需要(つまりドルへの需要)より米国以外の国の製品・サービスに対する需要(つまりEUやら円やらへの需要)が高いってことですから、極めて単純にいうとドルは下落し、他の通貨は上昇するはずということになります。米国の経常赤字の規模は並ではないんで本当であればそのうちにドルの大暴落が起こって、ドルを基軸通貨としている国際経済は大混乱、米国人もドルの価値が下がって今までみたいに安価な外国製品を買って豊かな生活というワケにいかなくなり、大変なビンボー生活に・・・・ というのが「大問題」の中身なんですが、みんなが一致しているのは今の状態は無限に持続可能ではない、という点だけで問題の切迫度や、原因(したがって対処方法)に関しては、最初に書いたように政治的な色によって大分、というよりは全く変わってきます。
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□ 何でもブッシュが悪い
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さて、日本で最もよく紹介されているのが、クルーグマン御大なんかでおなじみの「ブッシュ政権主犯、アジア人共犯説」です。ちょっと単純な式をマクロケーザイの教科書から出すと、
実物投資=民間貯蓄-政府財政赤字+経常赤字
という風になるのですが(何でこうなるかは教科書でも見てちょ)、ここで実物投資(つまり工場建てたりってやつね)をある程度一定と仮定すると、経常赤字は民間の貯蓄と政府の財政赤字(つまり政府の借金)で決まるように見えます(この「見える」ってとこが重要です)。上の式で財政赤字を増やして、民間貯蓄と実物投資が余り変わらないと仮定すると経常赤字が増えるでしょ。それでこの財政赤字と経常赤字の関係をもってこの2つを「双子の赤字」というわけです。
そこで、現政権の経済政策(なんてもんがあるとして)に批判的なリベラル系学者の主張は極端にデフォルメすると、「ブッシュのアホが政府の借金垂れ流してテロ対策なんかにお金ばらまいているおかげで、経常赤字が増えて米国人は大変なリスクに直面している」となります。
政府は国債を発行して借金するわけですが、普通だとこんだけ借金してる政府の国債の買い手はなかなか無いですから、国債売るためには金利を上げなくてはならず、金利が上がると投資が抑制され景気は後退、低金利での借金をベースにした住宅バブルも破裂・・・となるので、借金には限界があるはずですが、実際にはそうはならず、ブッシュは際限なく借金をしています。ここで「ブッシュの共犯者」が登場します。
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□ 何でもブッシュが悪い(アジアの黄色い人たちもちょっとね)
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つまり、対ドルで自国の通貨の為替レートが上昇して、対米輸出に悪影響が出るのを嫌がっているアジアの政府(今は主に中国が槍玉に上がってます)が米国の国債買いという形でドルを買い支えているおかげで、ブッシュも安心して金利上昇の心配なしに借金に励めるというわけです。
もちろん為替レートを操作して輸出を高めるというのは市場経済からいうと汚い手なんで、この主張の便利なところは、経常赤字も住宅バブルが続くことも米国の問題は全部アホのブッシュと汚いアジア人の責任にできることです。
ちなみに上の式を見るとわかりますが、このリクツでいくと、民間貯蓄の低下も経常赤字増大の原因になるわけですから、この主張の最後には「米国人が貯金せずにお金を使いすぎてるのも悪いんだけど」という「良心的」な自己批判も入ることがあります。また、米国外でとにかく米国が気に入らん人にとってはこの最後の点が最重要になります。つまり「アホの米国人が稼ぐ以上に使いまくっているせいで、世界経済は大変なリスクに直面している」というわけです。
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□ 米国は全然悪くない?
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もちろん物事には常に別の面があり、これはケーザイでも同じことです。現政権側、あるいはブッシュがそんなにキライじゃない学者が見る世界は全く異なっています。代表者は次期FRB議長の呼び声も高いバーナンキ御大です。
経常赤字は裏を返すと資本収支の黒字(外国からの資本流入つまり外国人のドル建て資産の増加)なんですが(厳密なとこはキョーカ書でも見てください)、それで上の式は、
実物投資=民間貯蓄-政府財政赤字+経常赤字
=民間貯蓄-政府財政赤字+外国人の資本流入
となります。ここでバーナンキ御大の説明によると、経常赤字の最大の原因は米国人の過剰消費でもアホのブッシュの財政赤字でもなく、外国人の資本の米国への過剰流入ということになります。つまり、米国外では、特にアジアでは過剰貯蓄であり、その余り余ったお金を外国人が成長率が高く資本リターンの高い米国で運用しようとドル建て資産を増加させているのが米国の経常赤字として現れているという主張です。
確かに、米国企業の資本収益性、成長率など非常に高く、それが外国人の資金を米国に引き寄せているのも否定はできません。これまた優秀な先生のマンキュー御大なんかも「移民が米国を目指すのと同様、外国人の資金も米国を目指している」となります。
さて、それではここでアホのブッシュが正しいことに目覚めて財政赤字を縮小するとどうなるでしょう。上の場合と同様に実物投資が大体一定と仮定すると、外国人の資本流入はそのまま続くワケですから、財政赤字が減った分は民間貯蓄がそれに見合った分減らなくてはなりません。民間貯蓄が減るためには金利が下がる必要があります。というワケでバーナンキ御大の説をとると、ブッシュが財政赤字を減らしても経常赤字はそのままで、しかも民間貯蓄は減少し、つまり米国人の消費がますます増え、おまけに金利が下がって余計に住宅バブルが悪化するということになります。
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□ ちょっと考えてみよう
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説明としては、クルーグマンなんかの言っているのとバーナンキの言っているのは全く逆になるんですが、個人的にはこれはバーナンキの方に少しだけ説得力があると思います(実態は両者のどっか真ん中でしょうが。普通はケーザイの式で変数を恣意的に固定して自分の都合の良い結果を導くのは「Single Variable Economics」ってバカにされる典型です)。例えば、米国と米国以外では分かりにくいですが、分かりやすくするために、日本の東京と東京以外を考えてみましょう。思考実験として、都道府県が全て国だとしてみましょう。
東京はおそらく、米国人も目をむく経常赤字国であるのは間違いありません。トヨタの工場もないし、食糧もないし、エネルギーも無く全て輸入ですからね。あるのは企業の本社ですが、これは米国の多国籍企業の本社が米国にあるのと同じです。それで、石原慎太郎が嫌いな向きは、「石原が軍隊ごっこするために都財政を顧みずに赤字を垂れ流すせいだ」と言うでしょうし、東京キライの地方の人たちは、「東京の連中は稼ぐ以上に、消費し過ぎてるからこんなことになる」と言うんじゃないかしらん。しかし、これはあまりピンとこないんではないでしょうか?
で、バーナンキ流に言えば「地方は成長率が低く、資金を運用する機会があまりないために、地方の資金が成長率が高く収益性の高い東京に流入してくるのが東京の経常赤字の原因だ」となります。分かりやすいでしょ。みんな認めたくはないので誰も言いませんが、米国と米国外の関係はこれに近い面が少し(あくまで少しですが)あります。国際経済においては米国が群を抜く都会で、あとは田舎ってこと。いつまでそうなのかは分かりませんけどね。
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□ グリーンスパンが悪い
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ただ、バーナンキの説明でひとつ問題があるのは「米国外の過剰貯蓄」です。世界経済はかなり高い成長を示していますから、これは「過剰貯蓄」と矛盾します。つまり、米国に流入しているのは「貯金してためたお金」ではなく、「金融がゆるくなって(つまり低金利で)、みんなが借金した資金が米国に流入してるんじゃないか」という疑いが濃厚です。
それで、世界中で金融が緩くなっているのは、もとを正せば米国の連銀議長のグリーンスパンが米国経済の減速を食い止めようと長期間に渡って低金利政策をしたことに大きな原因があります。グリーンスパンのかつての部下で、次期連銀議長の声もあるバーナンキには「米国の低金利政策が原因で世界中で金余りとなり、その資金が米国に流入して経常赤字になっている」とは言えなかったんでしょうねぇ・・・