6月末の中国の外貨準備は7,110億ドルというトンでもない額になっているようですが、これは2004年12月末段階から1,010億ドルの増加です。ちなみに日本の外貨準備は6月末で8,430億ドルですが、過去12カ月で1,070億ドルの増加ですから、中国の外貨準備は日本のほぼ2倍のペースで増加していることになります。
上の数字からみると中国の外貨準備は1カ月当たりで160-170億ドル程度増えてる勘定になりますが、この外貨準備の数字には国有銀行につぎこんだ150億ドルやユーロ安による目減りは含まれていないので、実質的にはもっと速いペースで増えていることになります。
で、中国の貿易黒字は過去、大低下半期に加速していますから、それを考慮に入れると今年中にあと1,200億ドルや1,400億ドル位増えるのはわけないと思われます(これは低すぎるかもしれません)。一方で米国は巨大な経常赤字をかかえており、この歴史上まれにみるスーパー赤字とスーパー黒字の組み合わせはブレトン・ウッズ2の安定性に暗い影を投げています。
そこで、人民元切り上げの話になるんですが、Financial Timesは、米国が8月の中国の人民元切り上げを予想していると報じています。さて、こんなに短期的に人民元の切り上げはあるんでしょうか。
どうも、いろいろ見ていると秋までに何らかの動きがある可能性は高いが、実質的にはほとんど影響のない程度という見方が多いようです。
人民元切り上げの根拠として多くが挙げているのが、
- このままだと10月中旬に米国は中国を「為替操作国(Currency Manipulator)」であるとお墨付き(?)を与えることになる。
- シューマー・グラハム法の採決が今秋おそらく行われる。これは中国が人民元切り上げをしない場合、27.5%の報復関税をかけるという(メチャクチャえーかげんな)ものです。
- 胡錦濤主席の今秋の訪米。訪米前にアクションがないとブッシュ大統領が胡錦濤主席に直接人民元問題をぶつけることになりますが、この光景はあまり中国の国内政治的に見て宜しくない。
- 通貨介入の不胎化のために発行した手形残高が膨大な額になりつつあり、人民銀行の金利リスクへのエクスポージャーが増大している。
こう見るとそれぞれもっともらしいのですが、これを打ち消すのが、今巷でささやかれている中国の景気減速の兆候で、もし人民元を切り上げてさらに景気が減速すれば、共産党が最も怖れる社会の不安定化の可能性があるという見方です。それに、どうも米国の圧力に屈したととられるのも共産党にとっては好ましくないという見方もあります。
ということで、両方足して2で割ると(?)、実質3%とか5%の切り上げになるちょっとした動き - 米ドルに対するペッグから、シンガポール形式の通貨バスケットに対するペッグへの変更が有力視されているようです。こうすれば米国の報復を避けつつ、しかも米国の圧力への屈服というよりも「新たな通貨政策への移行」という大義名分もたちますし、これくらいの実質切り上げなら経済への影響も最小限になるというわけです。
ありそうな話ですが、どうでしょうか??
すごく小手先に見えるような気もしますが、考えてみれば中国共産党にとっては人民元の安定(そして変更があっても小幅な変更)が望ましいことは明らかです。そして、それは多分、中国経済の大きい影響を受けている日本や他の国にとってもある程度同様ではないでしょうか。
ある程度の開放経済では、不均衡が為替で修正されない場合は、物価水準を通じて修正されることになります。つまり、人民元のレートが現在過小評価されているとしても、時間が経てばそのうちに中国の生産性や給与水準が上昇し不均衡が修正されることになります。
為替による修正と異なるのは、為替による修正がほとんど一瞬にして起こるのに対して、物価や生産性による修正は極めて長期間のプロセスになるということで、安定性が至上命題の中国にとっては(そして他国にとっても)極めて好ましいといえます。ちなみにマッキンノン御大も大体こういう考え方のようです。
問題は中国は極めて巨大で、この不均衡修正プロセスが極めて長期間になるであろうということで、その間米国が赤字に耐え続けられるかという点です。これに関してはガクシャでも強気派から弱気派まで分かれており(一応弱気の方がアタマが良いと思われているようですが)、何とも言えませんが、1つだけ確かなのは米国の政治家と国民がそれほど長い間耐えられないということでしょう。
これは、ユノカルの買収一つでこれだけ大騒ぎしてるのを見ても明らかでしょう。米国の経常赤字は、中国に対するドル資産売却(人民銀行のドル買いはそのうちの1つです)で埋められる必要があるわけで、中国のドル資産は1カ月に1個ユノカルを買っておつりがくるくらい増えてるわけです。このドルはもちろん日本みたいに米国債ばっかりに行くわけじゃありません。ユノカルどころかいろんなモノが中国資本に買われることになるでしょうが、米国人がそれに耐えられるかどうか?多分無理ではないでしょうか。
というわけで、8月に小幅な切り上げがあろうがなかろうが、まだまだ人民元問題はどうなるか分からない状態が続きそうです。