昨日はオバマ米大統領が新金融規制案てのを出して、少しばかり騒ぎとなっておりました。内容に関しては、多くのところで良いサマリーがありますので、詳しくは述べませんが(って単なる手抜きですが)、個人的には今回のタイプの規制の方向性自体は支持しています(悪魔は細部に宿るってことで詳細にもよりますが)。
金融業界では反対の人が大半でしょうが(で、それにも真っ当な理由はありますが)、金融危機で流動性リスクやらカウンターパーティ・リスクに翻弄されたさまざまな業界ではこの手の規制を当初から期待、予想していた向きは結構ありました。例えば、その代表格として資産運用業界のバー・ローゼンバーグおじーさんなどは昨年の早い時点で
今回の金融危機では、流動性資産が確固とした信用の傘の下になければならないことが明確になった。政府保証が速やかにマネーマーケットにまで拡張され、預金保険も金額と対象範囲が拡大された。
今後はリスク資産と流動性資産の間に明確な線が引かれることになるだろう。その線がどこで引かれるかは分からないが、政府はこれを真剣に検討することになるだろう。
というのも、システムの流動性を確保するには、流動性資産が低リスクであるということが必須だからだ。今回の危機において、各国政府は流動性の枯渇の衝撃には耐えることができないということを十分に認識した。
「巨大すぎて潰せない」という問題や預金者の流動性資金をリスクにさらすモラル・ハザードを回避するために、金融業界は分割縮小整理される可能性がある。これがその他の規制に加えて、政府の取ることのできる唯一の解決策になるだろう。
総合金融機関というモデルは否定される方向に向かう。各国政府は、金融機関間での牽制が機能するようにスペシャリストへの分割を図る可能性がある。
などと、言ってました。
しかし、実際にはオバマ政権はこれとは逆方向に、すなわち少数の「巨大な総合金融機関というモデル」の安定度と、それに輪をかけた巨大なシステミック規制機関により「低リスク」を担保し、あとは「消費者保護庁」で人気を維持するという方向性で進んでおりました。先週までは。
「分割派」の筆頭(というか政権内では1人だけですが)のボルカーなどは完全に経済政策運営の蚊帳の外におかれておりまして、WSJでも「虚空に説くボルカー」なんて記事が出ておりました。先週までは。
で、今週に何があったかというと、マサチューセッツ州上院議員選での民主党の敗北です。マサチューセッツ州は全米の中でも最も民主党支持の多い州の1つであり、ここで負けるのであれば、今年の中間選ではどの州で負けても不思議はないということで、オバマ政権内で一気に危機感が高まったであろうことは想像に難くありません。
そこで「分割」であれ「規制」であれ、ウォール街の金融機関叩きは人気取りにはもってこいなので、選挙結果とそれによる党内の揺らぎに泡を食ったオバマ大統領が「逆噴射」したというところではないでしょうか。年が明けるまでは民主党候補のコークリー女史が圧倒的に優勢との読みが大半でしたから、この「プランB」がそれほど深く練られたものであるとも考えられません。残念ながら、この政治的経緯からして今回の新規制案が「真面目」に進められるとはあまり考えられません。
オバマ大統領は今回の規制案が「現在議会で進められている包括的金融改革案を強化するものだ」なんてのたまってますが、実際には完全に逆行するものです。しかも現在の包括改革案を進めている経済ブレーンのヘッドであるサマーズもガイトナーも今回の案には絡んでいないところを見ると、おそらくは政治ブレーンであるアクセルロッドあたりが、今までの政策で国民の不興を買っていない唯一の大物であるボルカーを引っ張りだして打った「ネコだまし」ではないかという気もします(サマーズ御大やガイトナー坊の今後の扱いも興味深いところですが)。
これは少しシニカルすぎるかもしれませんが、しかし中東和平やキャップ・アンド・トレード、それにヘルスケアなど、これまでの大統領の「実行力」を見ると私は今回もあまり真面目に聞けません。ただし、ボルカー御大ご自身は政治的闘争には慣れた老練でタフなおじーさまなので、このお方だけが「サプライズ要因」かもしれません。
ということで下に(まだ今より若い頃の)おじーさんの写真を。いや、きまってますな。こんなお方に「そこのボン、ちょっと黙っとけ」なんて言われるとガイトナー坊でなくても泣きそうです。株価を大幅に下げるだけのことはあります(褒め言葉です。念のため。それに実物は「少なくとも今は」大っきい古木のようにどっしりとやさしそうなおじさんです)。
追記:ちょっと報道も一部で混乱してるみたいですが、おじーさんが今まで言ってるのはグラス・スティーガルとは違って、ややニュアンスのあるものですし、細部まで詰められたものでもありません。ボルカーは極めてタフですが現実的な実務家であるという点も認識しておくことは大事かと思います。


Main St.対Wall St.的対立の図式はそれなりにウケるのでしょう。
しかし現実はまさに「悪魔は細部に宿る」でありまして、market makingの結果生じたexposureをヘッジするのはproprietary tradesなのかどうか、などという深遠な問題をどうするのか、そうした細部の規定次第では中長期的には大変なコスト増となってMain St.に跳ね返ってくるのでしょうね。
USはまだいいとして、日本の金融庁がうわべだけ真似たら悪夢になるのは間違いなさそう。
コメント by 橋場桃園庵主人 — 2010/1/23 土曜日 @
ご指摘されておられるように、マサチューセッツ州上議員選での敗北はオバマ陣営にとってはかなり打撃になったと思います。リーマンショック以降、アメリカ経済は沈んだままで回復の兆しがありません。失業率実質17%といわれる不景気の中、ブラウン候補の煽りもあってか、不況に対する庶民の怒りが爆発した結果がマ州での敗戦につながったものと推測します。
更に皆保険制度の恩恵を受けているマ州住民から突きつけられた「No」という声はヘルスケア改革を唱えるオバマ陣営にとっては大きなショックだったのではないでしょうか。
この結果を受けてヘルスケア改革に修正が加えられ、金融危機に対して上手く対応できなかった責任者(?)としてバーナンキ議長の再任にも影響がでそうな状況になっています。
今回の金融規制についての妥当性についてはNYT紙に寄せられたStockman氏の意見が核心を突いているように思われます。先週の記事ですが、ご参考になさってください。
http://www.nytimes.com/2010/01/20/opinion/20stockman.html?emc=eta1
庶民から見ると、この金融規制が銀行のサービス低下につながりツケが回ってくるのは一般預金者という感覚なのですが、ギャンブルに興じる銀行にとどまっていたマネーが中小企業に流れて米国経済が活性化すること念願しております。
コメント by Bimi Fukui — 2010/1/24 日曜日 @
橋場桃園庵主人さま
コメントありがとうございます。明日(2/2)公聴会でボルカーの証言がありますので、それを見て、という感じでかと思います。個人的には(ほんの)少しだけ期待しています。
コメント by plateaux — 2010/2/2 火曜日 @
Bimi Fukuiさま
@fbimiさんですね。コメントありがとうございます。
Stockmanさんは昔はレーガン政権、今はCRFBでのボルカー御大の「盟友」ですね。
「ボルカー・ルール」発表の際のドナルドソンといい、どうもおじーさん・パワー全開ですが、がんばってほしいです。
コメント by plateaux — 2010/2/2 火曜日 @